研究室インタビュー

人生100 年時代に希望を持って暮らせるまちを自分でつくる
東海大学
|後藤純研究室
後藤純 准教授
まちづくりとは自分の居場所を自分でつく ることである。後藤純准教授はここで意識すべ きは" 居場所であって逃げ場所ではないこと" という。 「居場所と逃げ場所の違いは未来があるかな いか。誰もが前向きに未来は明るいと希望を抱 ける場所を持つべきです。人間の生活圏という 意味ではこういう研究も建築の一分野です。人 生100 年時代と言われる今、みんなが不安なく 生きがいや希望を持って暮らせるまちづくりを 目指しています」

後藤純 准教授
博士(工学)
(ごとうじゅん)
1979 年 群馬県生まれ
2004 年 東京理科大学理工学部建築学科卒業
2006 年 同大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2010 年 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了
2010 年 東京大学高齢社会総合研究機構勤務
2020 年 東海大学工学部建築学科特任准教授
人の暮らしに寄り添うまちづくり
後藤准教授の研究は人が暮らすところ全てが対象となる。「そこに住む人が今まで作ってきた伝統とか文化を見直して、これから自分たちが心地よく暮らせる居場所をつくっていくのがまちづくりです。企業がするのは都市開発、行政がするのは都市計画、住民がするのがまちづくり、と学術的にも分類されていますが、私としては住民主体のまちづくりを前提に、行政や企業が一緒に取り組む協働のまちづくりが理想だと思っています」
後藤准教授のまちづくりとの出会いは東京理科大学2年生の頃だ。後に師事することになる渡辺俊一教授が社会人向け生涯学習講座を開講していた。「地元のおじさんたちが夜な夜な集まり、どうしたら自分たちのまちが良くなるかを一生懸命考えていました。住んでいる人自身が自分のまちを良くしていこうとする世界を目の当たりにして感動し、都市空間だけでなく社会的な機能も一緒に問い直していくことに興味を持ったのです。ある意味人の暮らしに寄り添う研究です」

NPO がまちをつくる時代
後藤准教授はNPO のまちづくりに着目し、 修士課程では『NPO が自らのまちの改善案を 提案して、それを実現していくプロセスの研究』 に従事する。
「母が生活支援のボランティア活動をしてい たので、そのNPO 法人を立ち上げる手伝いを しながら、他の住民参加のまちづくりNPO にも関わっていました。博士課程では『協働のま ちづくり事業制度の課題と可能性』について研 究しました。1998年にNPO法ができて10年 たった頃ですが、NPO によるまちづくりの議論 も少し下火になっていました。いくら企業や行 政が頑張っても、当の住民たちが本当に望むこ とでなければ意味がない。NPO、町内会やボラ ンティア団体など、市民社会組織を支援して成 熟させていくことが、協働まちづくりの課題で あり、都市計画としての使命だということをま とめました」

超高齢社会を迎えて
では現在の日本のまちづくりにおいて課題と なるのは何だろうか? 後藤准教授は高齢社 会への対策が鍵だと考える。「日本は世界に先 駆けて超高齢社会に突入しています。かつて日 本は先進諸国の事例を取り入れて成長してき ましたが、こと高齢社会については日本が最先 端なので、自分たちで考えなくてはいけません。 そしてそれは世界のニーズにも当てはまるので す。世界の先進国とも共通するのは、中堅所得 の高齢者の生きがい問題として取り組まなければいけないということです。社会福祉や医療だけでなく、都市の問題も含めあらゆる学術分野が連携していかないと解決しない課題となっています」
後藤准教授は東京大学高齢社会総合研究 機構に在籍中から福井県の在宅医療プロジェ クトに携わる。「団塊の世代が80 歳をすぎる と、病院のベッドが足りなくなり、それに向けて 仕組みを整える必要があります。地区医師会の 先生たちと、どうしたら在宅医療が定着するか 考えていました。一方で医療の対象者に目を向 けると、当初は老人ホームに入るのが当然とさ れていましたが、市民啓発委員会を立ち上げて " 本当にそれでいいのですか? " と問いかける と、" やっぱり家がいい" という本音が聞こえる ようになりました。訪問する側の仕組みを整え るのはもちろん、受け手側の気持ちの部分も重 要です。本音ではどうなのか? 応答を繰り返 すとリアルな声が" ポロリ" と出てきます。そう いう本音に支持されるまちづくりの方が実現し やすい。このようなアプローチの方法で、本音と 仕組みを行き来してモデルをつくり、福井県が 制度的展開をはかって、いまでは在宅医療介護 連携推進事業ではナンバーワンの県になって います」他にも、柏市や秋田市などで高齢者が活動、活躍できるまちづくりに取り組んでいる。「柏市の豊四季台団地に地域活動館(仮)を作り居場所の提案をしています。例えば美術館で絵画鑑賞をすると自分も絵を描いてみようと思ったり、映画館で料理シーンのある映画を観ると料理をしたくなったりする。地域活動館に行くと地域活動しようかなという気持ちになるようなところにしたいというコンセプトです」。具体的には市民団体向けの部屋の時間貸しですが、壁1面だけテーブルをおいて、縁側のような、団体の活動中でも誰でも気軽に入ってコーヒーが飲めるスペースにしました。ハーモニカサークルの活動中に、コーヒーだけ飲んでいく。するとサークル活動をしている知り合いがいて誘われる。かつて自分も夢中になったビートルズを演奏するグループと出会ったりする。「私もやろうかな、という意識が生まれます。人間閉じこもると、健康に悪いという研究結果もあるので、団地を開き自分が本当に興味を持っていることに接する機会を増やすのが狙いです」

まちの未来を想像し、自分なりの問いを立てる
現在、研究室では近郊の藤沢市や大和市、また被災地の大船渡市など、学生それぞれの興味のある地域について調査を行っている。研究には最初に仮説を立てて、その謎を解くような進め方もあるが、後藤准教授は仮説を立てること自体に1年間かけてもいいのではないかと考える。「福井の例も市民が、本当は家に居たいけどいろいろな問題があって老人ホームを選ぶということを教えてくれるようになるまでは、3年くらいかかりました。当事者も社会も納得するには、それなりに時間がかかる。これからどんな時代になって、どんな問題が発生するかということを素直に考えて欲しい。まずみんなは本当は何に困っているのか? 自分ならどんなまちで暮らしたいかということを想像力を持って考え、自分なりの問いを立てるということが大事なのではないでしょうか」。


研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
①後藤研究室を選んだきっかけ
②後藤先生の魅力
③自身の研究テーマ
-
遠藤直弥さん えんどう なおや 修士1年
①都市の中の人々の行動やコミュニティについて深く学びたいと思った。
②知識が豊富でさまざまな側面からアドバイスをしてくれる。
③屋台村を通じた中心市街地の活性化 -
大野拓貴さん おおの ひろき 学部4年
①小さい頃から都市開発に興味を持っていた。不動産業界で仕事をする際に活用できる知識を身につけられると考えた。
②落ち着いている。
③スマートシティ -
加藤李奈さん かとう りな 学部4年
①まちを良くする手助けができると考えた。
②知識が豊富。
③高齢地域における地域活性化事業の現状と可能性 -
越光蓮さん こしみつ れん 学部4年
①都市計画の観点から震災復興の研究をしたい。
②さまざまな計画を比べる比較都市計画の話。
③東日本大震災の事後研究 -
白川竣平さん しらかわ しゅんぺい 学部4年
①建築を学ぶうちに、都市計画やまちづくりに興味を持った。
②学生のやる気を起こさせてくれる。
③湘南ライフタウンの都市農地の活用 -
千葉恭輔さん ちば きょうすけ 学部4年
①都市計画の知識を生かして地域に貢献したい。
②学びたい分野について自由に研究させてもらえる。やる気や興味をより伸ばしてくれる。
③遠郊外住宅地の実態 -
手塚悠希さん てづか ゆうき 学部4年
①統計に興味があり、都市について深く研究したかった。
②問題の本質を見抜ける。
③スマートシティ -
加藤翔大さん かとう しょうた 学部4年
①現場で直接調査して自分の目で確かめ、関係者インタビューするなどやりがいを感じた。
②アドバイスが的確。メリハリがはっきりしている。
③湘南ライフタウンの都市農地の活用 -
中島亮太さん なかじま りょうた 学部4年
①自分の住んでいる地域に興味があり、研究してまちの実態を知りたい。
②自分が調査した分だけアドバイスしてくれる。
③高齢者の日常生活の移動について -
新村大輝さん にいむら だいき 学部4年
①都市計画やまちづくりなど地域のためになる研究をしたい。
②アドバイスが豊富。建築に関する幅広い分野について知っている。
③テーマパーク建設が都市形成に与えた影響 -
富靖閔さん フウ セイビン 学部4年
①都市計画に興味があった。都市再生の研究がしたい。
②優しい。辛抱強い。学生が自由に研究できる。
③中日の比較による団地再生に関する研究 -
藤田理央さん ふじた りお 学部4年
①都市計画の授業を受け興味が湧いた。
②アドバイスが分かりやすくユーモアがある。
③東日本大震災の事後研究
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