研究室インタビュー

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地域の空間資源をどう使いこなしていくか? 「建築」と「社会」と「もの」の見方を一緒に考える

東京工芸大学

建築構法研究室

森田 芳朗 教授

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森田 芳朗 教授

森田 芳朗 教授

博士(工学)

(もりた よしろう)

1973年 福岡県生まれ
1998年 九州大学大学院工学研究科修士課程修了
2004年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
同大学院工学系研究科COE研究員、同大学院新領域創成科学研究科客員共同研究員、千葉大学大学院工学研究科助教を経て、2010 年東京工芸大学工学部准教授
2020年 東京工芸大学工学部教授

建築を取り巻く社会の中で

 森田芳朗教授の建築構法研究室では、建築構法、建築生産、リノベーション、住宅、コミュニティの5つをテーマとして、「すでにあるものをどう使いこなしていくか」が問われる時代の建築について、具体的な建物や地域をフィールドとして研究を進めている。

 森田教授が専門とする「建築構法」は、建築のモノとしての成り立ち、建築の構成方法や組み立てを扱う学問で、「建築生産」はその建築を実現していく仕事や社会を扱う学問だ。2022年8月に市ヶ谷出版社から出版された建築生産の新しい教科書『建築生産(第三版)』で、森田教授は締めくくりとなる14章「ストック時代の建築生産」を執筆している。「建築を取り巻く状況はいま大きく変わっています。新築を大量につくり続ける時代は過ぎました。すでにある建物や空間に手を加え、より豊かな環境に変えていく、時代のニーズはすでに移っています。そこでは、供給側だけでなく、それを利用する人たちやコミュニティからの視点、そして建築を成り立たせている「社会」へのまなざしが欠かせません。そうした時代の「建築」という仕事の面白さとは何か。研究室では、このことを一緒に考えていきたいと思っています」。

 住宅地のコミュニティ形成、ストックのマネジメント、リノベーションの構法などは、森田教授が学生時代から取り組んできた研究テーマだ。大学院の博士過程では、住環境のなかの「所有」と「利用」の関係について研究。その一環で、住宅協同組合が所有するアメリカの集合住宅「グリーンベルトホームズ」を調査した。博士課程修了後は、東京大学21世紀COEプログラム「都市空間の持続再生学の創出」に参加し、世界の都市再生の現場を訪れた。研究成果は、『世界のSSD100:都市持続再生のツボ』(東京大学cSUR-SSD研究会編著 彰国社 2003年)にまとめられている。「各地で起きているサステナブルな都市再生の試みを100事例集めたものです。建築学と都市工学と社会基盤学の3つの専攻の研究者が一緒に集まり分野を超えて取り組んだ研究プロジェクトです。それぞれの専門分野の視点だけでは見えないような都市の課題や可能性を立体的に見ることができました」。

 他にも研究室には森田教授が手がけた本や雑誌が何冊も並んでいる。『日本の木造住宅100年』(監修:坂本功、社団法人日本木造住宅産業協会2001年)は、森田教授が学生のころ研究室で木造住宅の変遷をまとめたもの。『タワーマンションは大丈夫か』(齊藤広子+浅見泰司編著 プログレス 2020年)では、「タワーマンションのエレベータが止まるとどうなる?」と題した章を担当し、東日本大震災のさなかに首都圏のタワーマンションでは何が起きたのか、当時の研究室の皆さんと一緒に取り組んだフィールド調査をまとめている。イギリスで出版された『Residential Architecture asInfrastructure』(Routledge2021)はオープンビルディング(居住者参加による集合住宅の計画手法)の世界各国の実践をまとめたもの。この中で、森田教授はChapter12の日本の事例を担当し執筆した。「日本は、他国がまだ経験していない数の空き家を抱える「課題先進国」です。福岡県久留米市にあるコーポ江戸屋敷という賃貸住宅が、部屋の中だけでなく敷地内もまるごと使いこなせるような住まいを目指して、DIYリノベーションやランドスケープデザインに取り組む様子などを紹介しています」。

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フィールドワークを通して学ぶ

 「大学の近くで学生さんたちと一緒に取り組んでいるプロジェクトをいくつか紹介させてください。1つめは、「愛甲原住宅ロータリープロジェクト」です。これは、建築設計の田村研究室と一緒に取り組んだもので、日本建築学会の技術部門設計競技で佳作を受賞しました。

 2つめは「よってけさん」プロジェクト。大学脇の小鮎川をバスで10分ほど行くと、神奈川県唯一の村、清川村があります。2019年、NPO「結の樹よってけし」が、空き家となった築180年の民家を、地域のにぎわいづくりの拠点にするという計画に、海老澤先生の建築史研究室と一緒に参加させていただきました。設計の市原出先生や環境の山本佳嗣先生にもアドバイスをいただき、今は、清川村の地域交流拠点+古民家カフェになっています。

 3つめは、厚木市鳶尾団地内にある「Tobioギャラリー」です。ギャラリーの運営は、第二の人生として、それぞれの思いで地域貢献をされている地元の有志の方たちが立ち上げた一般社団法人コミュニティカフェ荻野です。2011年にUR都市機構から鳶尾団地で空き家が増えているので何か学生と企画ができないかとお話をいただいたのがきっかけでした。2012年からは学生さんが卒業研究として「鳶尾の魅力・再発見」をテーマに鳶尾団地の人たちにインタビューやアンケートを実施。2015年には団地内の空き店舗をコミュニティカフェにリノベーションしました(「Tobioギャラリー」)。写真学科の故・酒井孝彦先生や情報コースの森山剛先生たちを始め、コミュニティカフェ荻野、UR都市機構のみなさんと一緒につくりあげてきた「Tobioギャラリー写真まつり」は、今年10年目を迎えました。

 4つめは「ミドラボ」というプロジェクトです。
大学のすぐ近くに、1960年代に尼寺工業団地とともに開発された緑ヶ丘団地が広がっています。神奈川県住宅供給公社に就職した卒業生の企画によって共同研究が始まりました。2018年1月に大学と公社の間で連携協定を締結し、緑ヶ丘団地とその周辺地域の活性化に向けた取り組みを進めています。もう5年になりますね。建築や都市空間の設計が専門の市原出先生、八尾廣先生、田村裕希先生、鍛佳代子先生、また建設環境や設備の専門家として水谷国男先生、山本佳嗣先生など、建築コースの多くの先生が関わっています。同じ工学部では情報コースの森山剛先生、芸術学部の元・映像学科の百束朋浩先生、マンガ学科の細萱敦先生、よしまさこ先生、インタラクティブメディア学科の久原泰雄先生が加わるなど、学部・学科をこえたコラボレーションが実現しています。これまで地域の「お荷物」とみなされがちだった団地に、地域の「資源」としての新しい価値を与えることにつながればうれしいです」。

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「ストック」の時代に向けて

 森田教授の大学に着任してからの姿勢はまったく変わっていない。「建築学はこれまで新しい建物をつくることに主眼をおいた教育や研究がされてきました。しかし時代とともに、今あるものをうまく生かして機能・性能や価値を高めていくものづくりのあり方が重要になっています。それを実際の建物や住環境で考え、実践していくチャンスがここにはあります。そうした取り組みはいろいろな大学で見られますが、東京工芸大学では、たくさんの教員や学生が楽しみながら協働しています。その点が大きな特徴ではないでしょうか。今後、建築は領域を広げていかないと、産業として立ち行かなくなってしまうでしょう。それをどうお金にかえていくかも、考えなければいけません。まだまだ学生さんたちと一緒に学んでいきたいと思っています」。

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①森田研究室を選んだきっかけ
②森田先生の魅力
③自身の研究テーマ

  • 荒井温記さん(学部4年)あらい はるき

    荒井温記さん(学部4年)あらい はるき

    ①幅広く建築構法について学びたかったから。
    ②普段は物静かですが建築のことになると熱心に指導してくれるところです。
    ③紙をつかったハニカム構造の仮設家具の研究をしています。

  • 大谷鴻介さん(学部4年)おおたに こうすけ

    大谷鴻介さん(学部4年)おおたに こうすけ

    ①まちづくりに興味があり、幅広く学べると思ったから。
    ② 優しくて1人ひとりに対して真剣に相談に乗ってくれる。
    ③テーマパークによる地域活性化。テーマパークがある街はどのような影響を受け、地域活性化していったのか、その要因と共通点を研究していく。

  • 岡本理玖さん(学部4年)おかもと りく

    岡本理玖さん(学部4年)おかもと りく

    ①住宅関係に強く、就職先はハウスメーカーの企業に決めていたため。
    ②問題をそのままにしないところ。卒研の進捗報告時に適切なアドバイスをくださいます。
    ③リニア開通で変わる郊外(仮称)神奈川県駅を対象に、周辺はどのように変化していくか調査しています。

  • 影山莉子さん(学部4年)かげやま りこ

    影山莉子さん(学部4年)かげやま りこ

    ①リノベーションをする活動をゼミでしていて、参加したいと思ったため。
    ②的確なアドバイスをくださるところ。
    ③地方移住と移住体験ツアーの研究。地方移住のきっかけとなるツアーの特徴や内容の研究。

  • 川田雄大さん(学部4年)かわた ゆうだい

    川田雄大さん(学部4年)かわた ゆうだい

    ①住宅系について研究をしたかったため。
    ②おだやかな人柄でなにか意見を言っても否定から入らないところ。
    ③廊下の可能性。最近の間取りでは廊下を減らしていることが多い。ただ廊下を減らせばいいのか疑問に思ったので調べています。

  • 佐々木瑠菜さん(学部4年)ささき るな

    佐々木瑠菜さん(学部4年)ささき るな

    ①リノベーションに関心をもっていました。森田研究室は地域団地と密着したフィールドワークを行っている。
    ②私たちの興味・関心が強い事柄を取り入れてくれる。自分たちで考え、行動する力を引き出してくださる。
    ③統廃合した小学校の活用法と地域性。

  • 塩澤虎太郎さん(学部4年)しおざわ こたろう

    塩澤虎太郎さん(学部4年)しおざわ こたろう

    ①自分のペースで取り組めるのではないかと考えた。
    ②生徒との距離感も近すぎず遠すぎない。
    ③キッチンカーの生態。仮設建築の中でもキッチンカーはコロナ禍でも増えていて、さまざまな工夫がされていると考え、生態やキッチンカーの周りについて調べています。

  • 都倉 崇さん(学部4年)とくら しゅう

    都倉 崇さん(学部4年)とくら しゅう

    ①不動産関係に就職したかったから。
    ②優しく接してくれて困った時は助けてくれるところ。
    ③大和市の防犯の取り組み。大和市の防犯について調べ、大和市を良い街にするために研究する。

  • 柾木萌佳さん(学部4年)まさき もえか

    柾木萌佳さん(学部4年)まさき もえか

    ①団地などのリノベーションについて研究している。
    ②普段とても穏やかなところ。
    ③郵便受けの生態。地域によって郵便受けがどのような要因で違いをみせているのか。

  • 吉田結一さん(学部4年)よしだ ゆういち

    吉田結一さん(学部4年)よしだ ゆういち

    ①内装系に関わりたかった。民家や団地を中心に実践的に企画できる。
    ②チャレンジをさせてくれる。角材を用いて何かを作るなどリアルな体験ができた。
    ③自治会館の可能性。地元の自治会館を新たな活用法も含めて設計していく。地域の活性化につながるように。

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