研究室インタビュー

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適材適所の使い方で、安全性を担保した木材活用へ

中部大学

古川忠稔研究室

古川忠稔 教授

古川忠稔 教授

古川忠稔 教授

 

(ふるかわ ただとし)

1962年東京生まれ。京都大学土木工学科卒、同専攻修士課程修了。
五洋建設株式会社勤務後、大阪大学助手、文部科学省在外研究員(米国ノースカロライナ州立大学)、名古屋大学准教授を経て、2019年より中部大学工学部建築学科教授。

国産小中径木材を活用したスペースフレーム構造や、既存木造建築の耐震補強法、その他木質構造関係の研究に従事するとともに、2013年より「あいちの木で家をつくる会」会長として地域の木材活用に取り組む。

木の多機能性に注目し、適材適所で使う

構造の研究者として木材に向き合う古川忠稔教授。
丈夫で長持ちするという「安全性」に着目して研究を行っている。日本は古くから木造建築が多く、木は私たちに身近な存在だが、木材の研究者はそれほど多くない。そんな中で、「木を多様な形でどうやって有効利用していくかというスタンスで、“ 構造材としての 木材 ”を研究しています」と述べる。木造建築において木材に着目すると、柱や梁といった構造的な機能だけでなく、デザインや室内環境などさまざまな建物機能に影響を及ぼす多機能材であることが特徴だ。そのような木材を今後どのように使っていくか、昔からの木の使い方や今の地球環境の問題も踏まえて考えていきたいという。たとえば「木をうまく使う」試みとして、日本の山に生えている細くてあまり状態がよくない木の活用を目指し、材料としての強度を測る。他にも太い木材と鋼材を組み合わせて規模の大きい公共建築をつくる試みに加え、古い木造文化財の耐震性能を測り、補強を行うことで今後も使い続けられる建物を目指している。
 木材を将来につなげていくためには、山にかかわる人が安定して見返りを受けられるシステムをつくることが重要だ。
「山で木を育てるには何十年にもわたって投資をしているわけですから、みんなが豊かになっていかないといけない。どこかが痩せ細ってしまうと、将来に向けてその木を使った建物をつくることはできなくなると思います。そのために我々も木をうまく活かした建築をつくる。基本的には、いろいろな形で木を使う。言ってしまえば適材適所という言葉どおりの話なのです。適した材料を適した場所に使うという。何が適材なのか、適所はどこなんだというのを探りながら幅広く取り組んでいけたらいいなと思っています」

インタビュー画像

2 古い木造学校校舎屋根トラスの加力実験 3・4 本コンペのロッキングチェアーは座面を結束バンドで繋ぎ、クッション性を高めた

力の伝わり方を踏まえた木の使い方を

「つくりたいものをつくるのが一番」という古川教授のもと学生が主導となって進められた今回のロッキングチェアー。古川教授は「丸太を切り出した後の端材は学生にとって扱うのが難しいところがあったと思いますが、この材料“ならでは”の使い方を感じてもらえたらいいな」と語る。繊維方向に裂けやすいという木材の特質を踏まえたデザインがポイントだ。木材は木目方向に押したり引いたりするぶんには強いが、それを横にかけると木目にそって割れやすい。合板であれば話は別だが、今回の提供材は無垢の板を貼り合わせているため強い方向と弱い方向があり、ある方向にはとても強いが、それ以外は弱い。「力がかかるところには、その力がかかっても大丈夫な向きで木を使う」よう工夫したという。棚や置物と違って椅子は人の体重が直にかかるため、座った時に木にどのように力が伝わっていくか検討を重ね、力の方向を踏まえつつ木目方向に配慮して強度の調整を行った。また、使う人の椅子に対する扱い方にも考慮している。たとえば子供が無邪気に椅子の上で跳ねるなどが考えられるが、そういった場合にも耐えられるよう補強を行った。さらに、「座面に結束バンドを用いたことでクッション性が高まり座り心地がよくなったのでは」と製作チームは振り返る。

頭だけでなく感覚で素材を理解する

「自然の材料を扱う場合、コンクリートや鋼材よりも強度や大きさの面で制約が大きい。そういう制約が大きい材料をどうやって組み上げていくか。今回のコンテストではみんな自分で手づくりするのは大変だったと思いますが、木材とはこういう材料なんだと改めて感じてもらえたら」と古川教授。製作する上で素材を文字通り体感する重要性を説く。 
 建築ではさまざまな材料を扱うが、特に木材は他の材料に比べて触りやすく、加工しやすい。実際に木を触ることで、木という自然の素材を感覚として味わえる。「他の材料と比べて木は家の中でも人に近い部分で使います。床や壁といった直接触る部分に使うことが多いですよね。今回学生は椅子をつくってくれましたけれど、たぶんコンクリートや鉄の椅子よりは木の方が座り心地がいい。人や生き物に対してわりかし優しいのでね。そんなふうに材料の性質や良さを、頭で理解するのも大事だけどやっぱり感覚として理解してほしいですね。手触りや匂いや重さなどを学生にも体験してほしいな」と話す。

木から感じる自然の心地よさに注目する古川教授は、新しい建築技術との融合も視野に入れながら今後の木造建築の可能性を探る。「古い木造建築の場合、製作当時は今ほど加工技術の数は少ないし、重たいものを吊り上げることだって今ほどできなかった。そういうたくさんの制約があると、合理的にやらないとつくれない。たとえば人が持てるサイズのものしか持ち上げられない中でどう工夫してつくるのか考えますね。逆に今は制約がないからできることも多いのですが、現代のすごくかっこいい建物と古いものが重なってくっつくとひょっとしたら楽しいかもしれないですね。あまり昔のものにとらわれ過ぎず、今自分たちがつくれる良いものをつくるようにしたいです」と今後の木造利用に期待を込めて語った。

インタビュー画像

5・6・7 愛知県美浜町にある農業体験施設「季の野の台所」で実施した学生ワークショップ。学生とともに露天風呂の小屋をつくった

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①コンテストに出展したきっかけは?
②作品を制作していく中で苦労した点を教えてください。 
③建築に興味をもったきっかけ、将来どのような仕事に就きたいか?

  • 堀田隼平さん(学部4年)

    堀田隼平さん(学部4年)

    ①私自身、これまでに木材を使って何かを作る機会があまりなかったため、挑戦してみようと思いました。
    ②私たちの制作した椅子の座面は面材ではないため座面とその他の部位が一体化されておらず、補強が必要です。補強が木材の性質(繊維方向に力が加わると簡単に裂けやすい)
    の考慮もあり、とても大変でした。また椅子全体が軽く見える
    ように、最低限の補強で済むような工夫にも苦労しました。
    ③一から建築のことを考えられる設計職になりたいです。

  • 山路凛さん(学部4年)

    山路凛さん(学部4年)

    ①木材の有効活用について考えてみる機会のひとつになる
    と同時に、他の参加者の方たちの考えを知ることができると思ったからです。
    ②木材や工具の知識が乏しく、簡単な作業にしても経験が少なく、時間がかかってしまっていたように感じます。
    ③現場でモノづくりに最初から最後まで近くで関わることができる施工管理の仕事に就きたいと考えています。

  • 早川廣輝さん(学部4年)

    早川廣輝さん(学部4年)

    ①木材で何かを作るということに興味があったため。また、今後、自分が木材を加工し何かを製作するときに今回の経験を生かすことができると考えたからです。
    ②木材の特性を理解せずに製作してしまった部材が真っ二つに折れてしまうというアクシデントがありました。作り直すということが気持ち的に結構大変でした。
    また製作する期間が夏場だったため、暑さにも苦労しました。
    ③将来は、建設関係に進んでいきたいと考えています。今回の制作で、物を作り上げる大変さと達成感を味わうことができました。仕事はこの繰り返しだと思うので、頑張っていきたいです。

  • 前浪謙二さん(学部4年)

    前浪謙二さん(学部4年)

    ①木材を使った作品を作成することでより深く木材について知ることができると思ったからです。
    ②座った時に体重を抑えきれなくて木材が割れてしまうことがありましたが、その際に繊維方向などを考慮しながら作成したことが苦労しました。
    ③建物を建てることによって町が活気づくのは、自分の目標です。そのなかでも建物を建てることができる施工管理技士になりたいと考えております。

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