研究室インタビュー

安心・安全に暮らせる、持続可能な都市の実現に向けて
前橋工科大学
|辛島一樹研究室
辛島 一樹 准教授
「日常の生活すべてが研究の対象であり、学びの場」と話す辛島准教授の活動はフィールドワークを伴う理論と実践を心がけている。「都市の安全・安心」 「まちなか活性化」「広域」などのキーワードを掲げて取り組む研究は、地域が抱える課題を探り、あらゆる視点から解決法を見出していく実践的なものが多い。

辛島 一樹 准教授
博士(工学)
(からしま・かずき)
1984年 熊本県生まれ
2004年 有明工業高等専門学校卒業
2007年 民間企業の設計職
2011年 豊橋技術科学大学大学院
工学研究科建設工学専攻博士前期課程修了
2014年 豊橋技術科学大学大学院
工学研究科環境・生命工学専攻博士後期課程修了
2014年 同大学建築・都市システム学系研究員
2014年 同大学 建築・都市システム学系 助教
2021年 前橋工科大学 工学部 建築学科 准教授
“いのち”を守る都市計画の実現
日本は東日本大震災で経験したように、大地震へのリスクが高い。他にも台風や気候変動に伴う豪雨による洪水や土砂災害など、さまざまな自然災害によるリスクを抱えている。加えて長期的な人口減少なども大きな課題である。こうした全国の都市地域が抱える課題に対して都市計画の視点から具体的な対策を検討・実践することを目的としているのが辛島研究室である。そのようなリスクを改善する『安心安全なまちづくり』の1つのテーマとして、現在は救急サービスの適正配置の検討支援について取り組み、“いのち”を守る都市計画の実現を目指している。
「 『救急サービスの適正配置の検討支援』の研究は、 2021年に前橋工科大学に着任するよりも前の2019 年、豊橋技術科学大学に在籍している頃から取り組 んでいるものです。救命の現場では、救急出動件数 の増加とそれに伴う現場到着到着の延伸という現状 があり、初期対応までの時間延伸への対策が急務と なっています」 このような現状の解決を模索するにあたり、辛島 研究室の学生たちが行っているのは、ビッグデータ やAIを活用した救急出動需要予測技術及び救急車 両配置検討支援技術の開発だ。愛知県豊橋市の消 防本部と連携し、救急出動データのほか、人口推移 や気象変動、都市構造、道路ネットワークなど、あらゆるデータを集約させてAIを活用し、上述の技術開発支援に励んでいる。を活用してもらえそうな飲食店の事業者や団体への 「 多数・多量のデータ活用、AIの活用が可能になっ てきたことで急出動需要予測の精度を向上させ、将 来いつどこでどれくらい救急車が発生する可能性があ るのか、その情報を基に、どのように備えると効果的 なのか、といった情報や技術の提供が可能になって いきます。救急隊員や救急車両の適正配置の実現、 現場にかけつける時間短縮につながっていくことを目 指しています。住民が安全・安心して過ごせる都市 の実現に寄与し、さらには持続可能な都市の構築に 貢献できたらと思っています。そのためにも、今後社 会を支える技術を積極的に計画づくりに取り入れたい と考えています」

都市で過ごす楽しさの創出前橋駅周辺と中心市街地を結ぶ公共空間の活用手法の検討
中心市街地の活性化方策に関する研究も辛島研究室の大きなテーマの1つである。「安全安心以外にも、都市には「楽しさ」も非常に重要だと思います。『まちなか活性化』は、その「楽しさ」を創出する手段の1つだと考えています。近年は活性化の手段として、駅前広場や歩道空間などの公共空間をいかに活用するか、その方法論が求められています。そこで私たちの研究室では、前橋市のまちなかを対象に、利用者の多いJR前橋駅周辺の来訪者を中心市街地へ回遊を促進できないかと考えています。その取り組みの一環として、公共空間の活用に着目し、2022年度には実証的な実験として『けやきマルシェ』という空間づくりをシンボルロードであるけやき並木通りの歩道空間で実施しました」『けやきマルシェ』の初年度(2022年)は、学生たちとともに実際にまちなかを歩いて情報収集をすることからスタートした。その中で空間づくりを行う場所やその場所の空間イメージの検討、創出する空間を活用してもらえそうな飲食店の事業者や団体への声がけも行ったという。その結果、2022年10月に 社会実験を行い、朝日生命ビル前周辺の歩道空間 の一部を活用し、パークレット、ヤタイによる店舗出 店の空間を設置した。 「 研究室のプロジェクトに位置付け、全員が参加す ることで、学生たちは大学内で学んできたこと(対象 地の課題の抽出、その課題を改善するための計画づ くり)を実践する場になっています。活動を通して多 くの方々との交流も経験し、社会に出てから必要とさ れるコミュニケーション能力も向上する機会になっています」

地域活性化とフィールドワーク 空き家活用を核とした集落復興支援
辛島准教授の研究室名は「都市・地域計画研究 室」といい、“ 地域”が含まれているところが1つの 特徴でもある。 「都市空間だけでなく、その周辺に拡がる郊外や集落、 中山間地域などの『地域』を対象に、持続的な地域 の空間象や、活性化につながるような空間造りや仕組 みの提案も含めて研究として取り組んでいます」 実際に現地に赴いて課題を探り、具体的な解決法 を見出していく。フィールドワークを重視した地域プ ロジェクトの現在の主な活動の場は、福島県二本松 市だ。県が「大学生の力を活用した集落復興支援 事業」に取り組んでおり、辛島研究室は2021年よ り建築・都市地域計画を学んできた学生の強みを活 かしてこのプロジェクトに参加している。 「対象地域の二本松市の竹ノ内集落(東和地区)は、 少子高齢化が深刻な問題となっている地区のひとつ です。そこで私たちの研究室では、空き家を活用し た集落活性化を軸に活動の幅を広げたいと考えてい ます」
現地に赴く前に複数回オンラインヒアリングを重ね、集落での生活の様子、竹ノ内集落の魅力についてなどを、参加してくれた集落の方に、学生たちがたくさんヒアリングした。そのうえで現地を調査し、課題・魅力を整理した。住民との意見交換会(ワークショップ)や空き家の調査も行われ、集落の実状、課題、魅力などが見えてきたという。「地域それぞれに課題や特色が違います。それをいかにうまく読み取って、活用できる空間を創出するかが建築および都市計画、地域計画を学んできた私たちの活動の特徴でもあるし、面白く感じているところでもあります」救急サービスの適正配置の検討支援やまちなか活性化、集落活性化支援への取り組みなど、辛島研究室のテーマは多岐にわたる。しかし「安全で暮らしやすい、持続可能な都市・地域の実現」という視点から見ると、1つ1つの点が繋がり、線になっていく。「研究の成果は都市や地域の課題改善、ひいては持続可能な都市の実現に貢献し、多くの人々の生活の質の向上にも繋がっていきます。都市・地域という多くの人々が暮らす空間を扱うため、多くの人々の暮らしに貢献でき、とてもやりがいがあります」

研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
①辛島研究室を選ばれたきっかけ
②辛島先生の魅力
③ご自身の研究テーマ
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鈴木海陸さん すずきかいり(学部4年)
①建築の知識を深め、都市や地域の広い領域に興味を持った。
②様々な地域とつながりを持ち、フィールドの実践が多い。
③GISを用いた救急出動の効率化 -
前田大輝さん まえだたいき(学部4年)
①都市計画に関する知識を深めたいと思った。
②落ち着いて、真摯に向き合ってくれる。
③公共交通機関の距離関係から見た中心市街地活性化方策 -
吉田恭央さん よしだあきひろ(学部4年)
①都市計画の教養を深めたい。まちづくりに携われるため。
②落ち着いた雰囲気と丁寧な講義。
③住民防災活動が果たしうる人口流出軽減効果の可能性 -
坂野怜太さん さかのれいた(学部4年)
①建築単体ではなく、広い視点で見る所に魅力を感じた。
②落着きがあり、冷静で安心感がある。
③アフターコロナの温泉街における観光者調査と街の変遷 -
谷口想人さん たにぐちそうと (学部4年)
①データを用いてGISで評価することに興味を持った。
②硬い印象がなく、考えを気軽に話せる。
③中都市における生活環境及び居住移動の関係
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