研究室インタビュー

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環境と語り合い建築や都市を探求し構想する

東京工芸大学

建築設計計画Ⅰ研究室

八尾 廣 教授

八尾 廣 教授

八尾 廣 教授

一級建築士

(やつお ひろし)

1966年 大阪市生まれ
1990年 東京大学工学部建築学科卒業
1992年 東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了
アトリエ・ファイ建築研究所入所
1997年 岸田建築設計事務所入所
1999年 小松市立宮本三郎美術館 建設提案競技 最優秀賞
THT アーキテクツ 設立
2003年 東京電機大学、明治大学、東京工芸大学非常勤講師
2005年 八尾廣建築計画事務所設立
2008年 東京工芸大学工学部建築学科准教授
2017年 NPO 法人 GER 設立・副理事長
2018年 東京工芸大学工学部建築学科教授

環境に寄与する建築の探求

八尾廣教授の研究室では、建築が建つ地域の風土、歴史、文化、人々の振る舞いに至るまでを深く分析し、環境に寄与する建築を構想することを目的として、研究、設計の両面から建築の探求に取り組んでいる。八尾教授は、東京大学建築学科を卒業後、東京大学生産技術研究所の原・藤井研究室(建築家の原広司先生と建築理論家の藤井明先生)に入り修士の2年間を過ごす。「原先生と藤井先生が1970年代に世界中の集落を調査してまとめた『住居集合論』は大変すばらしい研究でした。私は先生方に影響され「集落調査をやりたい」と手をあげてインドネシアの集落調査に行きます。そこで、なんと世界は多様で、自分がまだ見ぬ、まだ知らない世界がどれほどあるのだろうと驚き、同時に、自分が設計をやっていく上で、何かまた新しいものを生み出せるだろうという可能性も感じました。当時ちょうど原先生は、「JR京都駅ビル」の設計コンペなど後に代表作となるようなプロジェクトも次々に手がけていて、私は、新しい文化としての建築を生み出すことに全てを賭ける、原先生を中心とする考える場、ものを生み出す場がとても楽しく、素晴らしいと感じて、建築家になる道を本気で目指そうと思ったのです」。修士修了後、原先生のアトリエ・ファイ建築研究所に入所し、住宅をはじめ、宮城県の図書館、広島県立基町高校などの公共の仕事やスペインのバレアレス諸島(マジョルカ島)に新しくできる先端学園都市のコンペなどを次々に担当する。「事務所に寝泊まりもして一生懸命働きました。原先生からは建築に関することだけでなく、建築家として生きるということのすべてを学んだと思います。その中で、しだいに独立に向けての思いが強くなりました」。1997年岸田建築設計事務所を経て、1999年に仲間と応募した宮本三郎美術館建設提案競技が508案の中から当選。これをきっかけに独立し、建築設計事務所(THTアーキテクツ)を共同設立する。以降、住宅や公共建築の設計を手がけ、多くの建築賞、景観賞を受賞した。「原広司先生の元で多くのプロジェクトに関わらせていただいたことで自ら建築を考える力がついていたのだと思います」。2005年に八尾廣建築計画事務所を設立し、現在も住宅や建築のプロジェクトが進行中である。「事務所で建築の設計を重ねるうち、40歳前後にふと自分の生き方に違和感を感じたのです。非常勤講師は東京工芸大学でも5~6年、他の大学でも一通~6年、他の大学でも一通りいろいろな科目を担当させていただき教えていたのですが、やはり原先生のように、研究と制作を並行しながら建築を探求したいという想いが次第に強くなりました」。2008年に東京工芸大学に着任し、研究、教育、実践の相互作用により新しい建築の探求を行っている。

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独立後最初に手がけた「小松市立宮本三郎美術館」

モンゴル国ゲル地区の調査研究

モンゴル国では20世紀末以降、急速な経済発 展のもと首都ウランバートルへの極端な人口集中 や、さまざまな都市問題が起きている。「2011年 に、Ganzorig, Luvsanjamts(ガンゾリグ・ロブ サンジャムツ)君という、モンゴル人の優秀な学 生さんが研究室に入って来てくれました。ウラン バートルで、さまざまな都市問題が起きていて改 善したいというのです。モンゴルというと草原の 中にゲルが佇んでいるような風景を想像します が、彼が見せてくれた一枚の写真は、ウランバー トルの丘に、ゲルが密集して建っている写真でし た。「一体、何が起きてるの?」と直感的に感じま して、ガンゾリグ君がウランバートルに戻った年 に、私もすぐ現地へ赴き、彼の親戚の住む地区か ら、インドネシア集落調査と同様に実測とヒアリ ング調査を始めました。帰国後、文化人類学分野 でモンゴル研究の第一人者である小長谷有紀先生 にご相談しましたら、「ゲル地区は問題地区と捉え ている人が多いけれど、実はそうではない。モン ゴルの住まい方は、遊牧のゲルという極めて完成された住まい方や歴史と深くつながっている。一軒一軒、丁寧にまわって調査をされたらどうでしょう」と的確なアドバイスをくださいました」。それ以降、研究室では「ゲル地区」の住居改善を目標とし、ウランバートル市ゲル地区開発局の協力を得て、ゲル地区全域にわたり住居内部も含む敷地内実測調査、住民へのヒアリングによる住まい方に関する詳細な実態調査を行ってきた。こうした本格的な調査が行われたのはモンゴルでも初めてのことだった。「研究課題は「モンゴル国における近現代の定住とは何か、都市とは何か」、という大きなテーマに育ち、もはや私のライフワークとなりつつあります。モンゴル科学技術大学や、都市計画、地理学、社会学、文化人類学、植物生態学など日本の異分野の研究者との連携も進み、ウランバートル市やモンゴル国建設都市開発省、国際シンポジウムにおいては住居改善の提言も行っています。2019年度からは鳥取大学乾燥地研究センターにて、20世紀以降近代モンゴルの歴史と風土、自然環境と都市の変遷を把握する文理の垣根を越えた共同研究も始まりました。以前、インドネシアの集落調査でご一緒した藤井先生が「こうした経験はじわじわと効いてくるんだよ」とおっしゃっていたのを思い出します」。

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モンゴル国ウランバートル市「ゲル地区」の都市問題、住居改善の取り組み

世界へのグローバルな視点と地域へのローカルな視点を

大学のある厚木市では、2022年9月、本厚木駅周辺を対象とする新たなまちづくり計画『本厚木駅周辺歩いて楽しいまちづくり推進計画~vision2040~』が策定された。八尾研究室の大学院生、4年生、3年生が2021年度に市民の方々とともに参加した「本厚木駅周辺の歩いて楽しいまちづくりを考えるワークショップ」の結果が反映された計画となっている。八尾教授は「厚木市本厚木駅周辺まちづくり推進委員」のメンバーとして議論に参画し、計画の策定に貢献している。「建築を単体としてではなく、広く、そのまちや都市、土地の文化とつながったものとして見る視点です。以前から、大学の地元である厚木に対して「この街はもっと魅力的になる」という思いがありました。役所の方々には、押しかけ女房的に、たびたび僕の意見もお伝えしてきましたが、役所の若い職員の方々が積極的にワークショップをなされ、街を良くしていこうという動きが活発化し、今後が非常に楽しみです。まちづくりは時間がかかる地道な活動ですが、これも集落調査と同じように、じわじわと時間をかけ効いてくると思っています」。
」に敏感でなくてはいけません。「環境と語り合う感性」が大切だと思います。建築の創作やまちづくり、都市問題への取り組みなど、建築設計者として「できること」を一緒に取り組んでいきましょう」。

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地元厚木市民の方々とのワークショップ

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①八尾研究室を選んだきっかけ
②八尾先生の魅力
③自身の研究テーマ

  • 方 舟さん(修士2年) ホウ・シュウ

    方 舟さん(修士2年) ホウ・シュウ

    ①先生の作品や研究に興 味を持った。先生の優しさや研究の熱意に感動し た。
    ②僕の研究に役立つ ことを探してくれる。研究がうまく進むか心配りしてくれる。悩みがある 時にも、いろいろなアドバイスをもらいます。
    ③ 建築におけるシークエンスに関する研究。

  • 星谷究実さん(修士2年)ほしや・きわみ

    星谷究実さん(修士2年)ほしや・きわみ

    ①集落研究をしていることが主なきっかけ。
    ②人情深いところ。建築を本気で好きなんだと感じられるところ。どのような相談をしても、親身になって話を聞いていただいたり、建築談義をしていて自身に知識となり身に付く。
    ③現代建築における対概念の用法。

  • タク 冰冰さん(修士1年) タク・ヒョウヒョウ

    タク 冰冰さん(修士1年) タク・ヒョウヒョウ

    ①先生の研究室のホーム ページを見た。先生が研 究している課題に興味を持っている。
    ②親和力が ある。根気よく生徒を指 導し、丁寧なアドバイス をする。
    ③住民参加型都 市再生手法に関する研究 ―「景徳鎮老鴉灘」城中 村をケーススタディとして

  • ト 睿釗さん(修士1年) ト・エイショウ

    ト 睿釗さん(修士1年) ト・エイショウ

    ①研究テーマが一番興味 深かった。
    ②優しい方で、 学問も上手。留学生にも親切で、よく本を勧めてくれます。みんなを展覧 会へ連れて行ってくれま す。
    ③観光客の知覚の視 点に基づいて、文化体験 を重視する世界遺産の歴 史的な町並みを改造するアモイ島鼓浪嶼。

  • 泉井さくらさん(学部4年) いずい ・さくら

    泉井さくらさん(学部4年) いずい ・さくら

    ①授業で「都市に持ち込 まれる自然は加工されている」という旨のお話を されていて、自分が都市 と自然に興味を持ってい たこと。
    ②気軽に相談を しやすい。自然や緑に対 するスタンスへ共感する 点が多くあった。
    ③現代 における緑化建築の類型 と社会的意義。

  • 磯崎 蓮さん(学部4年) いそざき ・れん

    磯崎 蓮さん(学部4年) いそざき ・れん

    ①先生は建築そのものを 環境の一部として捉えて設計しており、周囲と共 存するような建築を設計 したかったから。
    ②課外 活動にも積極的に参加しており、一般の方や実際に働いている方の考えに 触れる機会が多い。
    ③分断された都市 水戸をむ すぶコミュニティ施設。

  • 木口優月さん(学部4年) きぐち・ゆづき

    木口優月さん(学部4年) きぐち・ゆづき

    ①先生の雰囲気と授業が 興味深く、素敵だった。
    ②研究内容を相談する時 にさまざまな視点からア ドバイスをくださる。
    ③ 東京都23 区における空 き家利活用手法の類型。 特徴的な利活用手法をまとめること、23 区それ ぞれの空き家への取り組みをリスト化する。

  • 岸 雅人さん(学部4年) きし・まさと

    岸 雅人さん(学部4年) きし・まさと

    ①毎年、優秀な人が多く在籍するため。
    ②自分の研究に対してのひたむき さ。
    ③道の駅。過去と現在での道の駅の変遷をたどり、未来の道の駅について創造する。

  • 志久匠昌さん(学部4年)しく・たくま

    志久匠昌さん(学部4年)しく・たくま

    ①計画系の研究室に興味があったため。
    ②卒業研究に関する的確なアドバイスをしてくれる点。
    ③新宿駅の変遷と構内の複雑化に関する研究。新宿駅の歴史を可能な限り把握し、新宿駅構内が複雑化した原因を考える。

  • 當山 時生さん(学部4年) とうやま・はるき

    當山 時生さん(学部4年) とうやま・はるき

    ①設計製図の授業で先生 から指導をいただき、その際のアドバイスや説明 がとても分かりやすかっ た。
    ②研究に悩んでいる 際に親身に相談に乗ってくれるところ。
    ③ハウス メーカーによる商品化住 宅のデザインの変遷に関する研究。

  • 内藤龍歩さん(学部4年)ないとう・りゅうほ

    内藤龍歩さん(学部4年)ないとう・りゅうほ

    ①設計計画の授業がわかりやすかったので、学んでみたいと思った。人柄にひかれた。
    ②親身に相談にのってくれることと、人柄。
    ③東京都葛飾区の銭湯における地域的役割と今後。減ってきている銭湯が今後どのような役割を果たしていくのか気になったから。

  • 萩原 柚さん(学部4年) はぎわら・ゆず

    萩原 柚さん(学部4年) はぎわら・ゆず

    ①先生の授業が特におも しろいと感じたから。モンゴルの研究をしている と聞き、授業では扱って いないモンゴルの話を聞 くことができ、自分の知 識の幅が広がると思った。
    ②気軽に相談しやす いところ。
    ③美術館建築 における建築雑誌掲載写 真の視座。

  • 檜山祐果さん(学部4年) ひやま・ゆうか

    檜山祐果さん(学部4年) ひやま・ゆうか

    ①意匠設計に興味があっ た。優しいイメージがあり、話をしやすかった。 先生の授業が一番楽しく 取り組むことができた。
    ②学生1 人ひとりの話 を聞き、たくさんのアド バイスやヒントをくれる。
    ③薪ストーブを用い た集合住宅。

  • 平沼辰基さん(学部4年)ひらぬま・たつき

    平沼辰基さん(学部4年)ひらぬま・たつき

    ①都市計画やまちづくりに興味があった。
    ②生徒に寄り添って指導していただける。
    ③六本木ヒルズ再開発に伴う周辺街区の変容。再開発事業を行うには何かしらの意図があり、再開発でその街がどのように変化していくのか地図やデータから経年変化を追っていく。

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