研究室インタビュー

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建築物に作用する自然の力を捉え、安全安心を追求する

東京工芸大学

建築構造Ⅰ研究室

松井 正宏 教授

松井 正宏 教授

松井 正宏 教授

博士(工学)

(まつい まさひろ)

1964年 東京都生まれ
1987年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1989年 早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻修士課程修了
1989年~ 2002年 清水建設勤務
2000年 京都大学で博士(工学)取得
2002年 東京工芸大学工学部建築学科助教授
2008年 東京工芸大学工学部建築学科教授

調査・実験を基本とする最先端の耐風工学研究

2001年に開設された東京工芸大学風工学研究センターは、国内外の研究者と共同して風工学の学術的、技術的発展を目指す中核研究拠点に位置づけられ、国内有数の規模と設備を誇る。大小7つの風洞実験室をはじめトルネードシミュレーターや人工気候室などを備えたアジアの風工学研究ハブとして、海外の研究員も数多く受け入れている。風工学センターでの研究は、①強風に対する建物の安全性などを評価する耐風構造分野、②自然の風を利用したサステナブル建築の設計手法を探る室内空気環境分野、③ビル風や大気汚染、ヒートアイランド現象など、都市の風環境や空気環境・熱環境の課題解決を目指す屋外環境分野の3つを柱とする。
 主に①と③の研究で使われるのが乱流境界層風洞。ファンで発生させた風を建物や都市の模型にあて、建物の揺れ方や構造への影響を調べたり、周囲にどのような風が起きるかを確認したりする。同センター最大規模の大型風洞は、長さ15mの助走路に粗度要素と呼ばれるブロックをさまざまに配置して、場所によって性質が変化する自然の風を正確に模擬できる。模型を置くターンテーブルを回せば風向きの変化にも対応可能だ。実験結果は、風の影響を最小限に抑えるよう建物の形状や敷地内の配置を最適化することに役立てられる。大規模な開発事業では、ビル風の影響調査が環境影響評価制度で義務付けられていることもあり、大学として受託したコンサルティング業務や企業の検証実験などにも利用されている。


 松井正宏教授は、早稲田大学で建築学を学び、大学院では建築物の基礎構造や振動の研究をした。その後、清水建設に入社し、技術研究所で振動の研究を続ける。冷戦が終結した1980年代の終わりころから、建築でもかなり大きな建物を建てるプロジェクトが出てきた。いわゆるバブルだ。経済的には踊らされたが、さまざまな技術開発が進むというプラスの面もあった。「今はブルジュハリファなど800mを超える高い建物がありますが、当時、日本でも、超高層建築物を超える高層建築物の構想がありました。その構想の中で、風によって建築物が大きな力を受ける。その力は地震による力よりも大きい場合があるということで、風を研究する必要が出てきたのです。当時から風工学分野のトップランナーだった東京工芸大学、そして田村幸雄先生はその分野の第一人者で、清水建設でもご指導くださっていました。ちょうど会社の先輩が田村先生と一緒に風の研究をしていたので、私も、そこに加えていただき、横で話を聞かせてもらう、そんなかたちで、週末に風の勉強をする生活を始めました」。それから風の研究をするようになり、2002年に東京工芸大学に着任する。「台風が来る度に被害が報じられるのは、自分の関わることができないような小規模な建物でした。企業の中で、超高層建築物の耐風設計の研究精度を上げていく方向性は見えていたのですが、建物の大きさを分け隔てなく、世の中の風の被害を減らしたいという意識も高まってきたのです。今は、もちろん超高層建築の研究もしていますし、吉田先生や金先生といった若い先生方と学生と一緒に、一般の風災害の研究も積極的に進めていて、自分が考えていた研究が充実してできてきたと感じています」。

インタビュー画像

竜巻・突風の被害実態の捕捉の難しさ

 近年、大型台風や竜巻による被害が全国各地で発生しており、対策の必要性が指摘されている。台風と竜巻は同じ渦巻き構造だが、台風は建物に対して一方向に風が吹くのに対し、竜巻では非常に強い風が建物を鉛直方向に吸い上げるため、被害の性質も変わってくる。突風によって舞い上がった飛散物が構造物に衝突して発生する2次災害も大きな問題だ。
 台風と違い、竜巻や突風は、気象レーダーでも捉えることが難しいことがある。発生する場所や規模を把握できず、発生実態が正確につかめていない。竜巻は実際に起きたかどうか現地でしかわからないが、最近ではスマートフォンを利用した一般市民からの報告も増え、以前よりは正確な情報収集ができるようになってきたという。「スマートフォンのカメラ画像の精度が高くなり、さらに動画で撮影できるようになって、かなり捕捉率が高まってきました。しかし、特に竜巻や突風という非常にローカルで局所的に発生する風の被害は、それを予想することも難しいし、起きた時に、起きたというその事実を把握することも難しい。被害が起こるような建物や樹木、何か物体がないと被害の痕跡はわからないですし、人が見ていなければなかったことになる可能性もあります。地震の場合はリモートセンシングで、離れたところでも、震度や震源の深さなど、どんな地震が起きたか把握できますが、竜巻や突風事象のリモートセンシング技術はまだまだ検討が必要です。そして、その竜巻や突風の発生実態を正確に把握しないと、すべての構造物の安全性を正確に評価することができないという問題があるのです。例えば、原子力発電所にどのくらいの竜巻を想定したらいいかなど、発生実態を正確に把握することが必要で、気象庁や建築研究所、国内の大学の先生などと一緒にグループをつくって研究しています。被害が増えたか減ったかの議論の前に、被害の実態が捕捉されてないという問題にどう対応するかが、現在の課題です」。

竜巻の新基準策定に協力

 竜巻の新基準策定に協力2012年、ほぼ同時に発生した四つの竜巻が茨城県つくば市などを襲い、大きな被害をもたらした。1000棟以上の建物が倒壊し、死傷者も出た一連の竜巻は、国内観測史上最大規模といわれ、被害状況から竜巻の強さを割り出す国際基準「藤田スケール」で上から3つめの「F3」と認定された。
気象庁はこの災害をきっかけに、米国で考案された藤田スケールを改良し、より高い精度で風速を評定できる新たな基準を策定。2016年から使用されている「日本版改良藤田スケール(JEF)」は、評定に用いる建物や構造物など被害指標の種別を大幅に増やし、日本の環境に対応するため米国にはない軽自動車や墓石などを加えている。
 JEFの策定には、構造物に作用する風の力を正確に測る風工学の知見が取り入れられている。風工学センターの施設を利用した松井教授の実験成果も反映された。当時の松井研の学生も、トルネードシミュレーターで竜巻を再現し、コンピューターで複雑な風の流れを解析する研究や、圧縮空気を発射するエアーキャノンを使って、外壁材、ガラスなどの衝撃耐性を調べる実験などを担当した。「自分の手がけた実験・調査の結果が、国や建築学会の指針に使われることは学生の大きなモチベーションになります。また、耐風設計の研究は、日本の中でも研究室自体が少ないので、学生も社会に出てからやりがいのある研究だったことに気がつくことも多いようです。今はまだ実態を解明する段階ですが、将来的には竜巻や突風に強い建築物や建材の開発にもつながるでしょう」。

風工学の知識を知恵にして現場で生かす

 松井教授は、学生とともに全国各地の被災地を訪れ、気象庁や国土交通省などとの共同調査・研究に参加、被害実態の解明に力を注いでいる。「ここ3年ほどは調査に行くことができていませんが、現場で臨機応変に対応できるかどうかは、経験が鍵となります。とにかく好奇心が大切ですし、経験は必ず役に立ちます。それに、学校で学んだ知識を知恵に変えていかなければなりません。私たちは災害に立ち向かって行かなくてはならない。および腰になって手が出なかったり、足が動かないということはいけなくて、少しくらい不安でも、わからなくても、被災地に寄り添い、現象を見ていこうという勇気が必要です。そして、勇気に加えて心の余裕も必要です。余裕があるというのは、周りの人に対して優しい気持ちになれる、周りの人のことを考えられる思いやりですね。社会に対して、つねに安心安全を追求して、人の幸福のために動く。知恵と勇気と思いやり、この3つはいつも必要だと思っています」。

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①松井研究室を選んだきっかけ
②松井先生の魅力
③自身の研究テーマ

  • 張 子辰さん(修士2年) ジャン  ズチェン

    張 子辰さん(修士2年) ジャン ズチェン

    ①学部時代に振動学の授 業を受けました。当時自 分にとってものすごく複 雑な知識なのに、松井先 生のおかげで簡単に理解 できるようになってい た。
    ②とってもユーモア、 親近感のある先生。
    ③ Newmark のβ 法を用 いて超高層免震建築物の 時刻歴応答を計算する。

  • 遠藤拳士郎さん(修士1年)えんどう けんしろう

    遠藤拳士郎さん(修士1年)えんどう けんしろう

    ①学部生の時に授業を受けたことがあり、他の先生と比べて非常にわかりやすかった。
    ②研究内容で理解のできない問題や内容があったとき、理解できるまで親身になって教えてくださる。
    ③剛体モデルを使った突風時の限界風速の評価方法。

  • 栗橋 巧さん(学部4 年) くりはし たくみ

    栗橋 巧さん(学部4 年) くりはし たくみ

    ①建築構造に興味があっ て、今後の仕事に生かし たいと考えたから。
    ②た くさんの知識を教えてく れるところ。説明が丁寧 なところ。
    ③竜巻と建築。 竜巻の発生場所や台風と の関連を調べている。

  • 佐々木祥太さん(学部4年) ささき しょうた

    佐々木祥太さん(学部4年) ささき しょうた

    ①免震建築について興味 があった。学びたいこ とと一致していた。
    ② 1 人ひとりに親切にアドバ イスや研究について教え てもらえる。質問やわか らないところは丁寧に教 えてくれる。
    ③超高層免 震建築物における地震荷 重と風荷重の比較。

  • 神 将喜さん(学部4年) じん まさき

    神 将喜さん(学部4年) じん まさき

    ①建築構造について興味 があった。
    ②親身になっ て相談にのってくれる。
    ③超高層免震建築物にお ける地震荷重と風荷重の 比較。地震荷重に対して 安全に設計された免震建 築物がどの程度耐風性を 有しているかは建築物ご とに違うのが現状なの で、その基準を決める。

  • 鈴木玲緒奈さん(学部4年) すずき れおな

    鈴木玲緒奈さん(学部4年) すずき れおな

    ①製図に諦めがついた。 GAP が自分に合ってい た。
    ②マジメなところ。 おもしろくて優しく、時 には厳しいところ。頼り がいがある。
    ③塔状構造 物の高次モードについ て。建物の第一次、第二 次、第三次モードの発生 とその建物におけるおお まかな被害について。

  • 平林颯太さん(学部4年)ひらばやし そうた

    平林颯太さん(学部4年)ひらばやし そうた

    ①構造分野に興味があり理解しやすいと感じた。
    ②親身に受け答えしてくれる。構造に対する思いと知識量がすごい。
    ③竜巻と乱流境界層の比較。竜巻の平均風速と乱れ強さの鉛直分布を調べて、乱流境界層と比較し、建物の耐風設計に考慮できないか検討している。

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