研究室インタビュー

緑化・樹林化による地盤性能の変化を土木工学的に検証
東海大学
|杉山太宏研究室
杉山太宏教授
地盤工学・環境工学を専門とする杉山太宏教授は十数年来、植物や樹木の根系が地盤強度に与える効果や倒木・地滑りのリスクなど法面緑化の安全性を土木工学的に数値化し、有効な法面緑化対策の基礎的データを提供している。

杉山太宏教授
博士(工学)
(すぎやま もとひろ)
1964年 愛知県生まれ
1987年 東海大学工学部土木工学科卒業
1989年 同大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了、(株)オオバ入社(~1994 年)
1994年 山口大学工学研究科設計工学博士課程 単位取得満期退学東海大学助手
1996年 同工学部専任講師
2000年 同工学部助教授
2009年 同工学部教授
現在、ユニバーシティビューローゼネラルマネージャー兼務
緑化による地盤強度の向上を確認
「土木工事によって生じる斜面や法面は、雨による浸食で崩れないよう表層を何かで保護する必要があります。一般には、景観への配慮も考えて植物の種を蒔き成長させて表層を覆う緑化工法が採用されます。しかし、地盤の安全を対象とする土木工学と植生や生育環境などを考える植物学は全く別の学術領域で、土木技術者は植物に疎いため、工事期間内に青々とし た植生を実現しようと芝草のトールフェスクを はじめとする発芽生育の早い外来種を使って きました。いまは生物多様性の維持、環境保全 が意識され外来種は規制されていますが、土木 工学と植物学をつなぐ領域はグレーゾーンで、 斜面全体の安定性向上のためには基本的にア ンカー工や地盤改良を施し、円弧滑り解析など で安定性を評価するのに対して、緑化した植物 根系による表層地盤の安定性は評価されてい ないのが実情でした。研究室では、緑化植物に よりどの程度地盤が補強されるのかを、未緑化 と比較するとともに地盤硬度との関係につい ても検証しています」 最初はひまわりを植えた供試体で強度を計 測。「4 年生は4 月に研究室に配属され、1 月に卒論を提出します。そうすると、12 月にはデー タの結果が出ていなければなりません。ひまわ りは春に植えて、夏までに成長します。根が張っ た土壌に水平方向の力を加え抵抗力を調べる 一面せん断試験の結果、植物を植えていない土 壌と比べると強度が5 ~ 10%アップしていま した。大学院に進学する学生は4 年生から3 年 間研究室に所属するので、樹木の苗木を植えて 実験する人もいます。その研究結果によれば木 の根の方が密度や固さなどから、草花よりも補 強効果が高いことを把握しています。ただし、 法面緑化に最も適した植物は何かというのは、 土木の専門家で判断できず、主に農学系・緑化 系の専門家で組織される学会などが推奨植物 をまとめています」


実際の樹木の引き倒しや風洞実験も
根系の研究のきっかけとなったのが、厚木市市道の法面に自生した樹木の引き倒し実験。道路を覆うよう斜めに生えているため、台風シーズンなど強風による転倒が懸念され ていた。根元から50cm 上に荷重計を介した ワイヤをかけ、クレーン車で樹木が倒れるまで 引っ張り、変位と引張力を測定。そこから根本 の直径、引き抜き抵抗力を分析し、樹木の傾斜 角と安全率の関係を導き出した。また樹木モデ ルを使った風洞実験で樹木根系の風抵抗力を 調べ、樹木が植えられている地盤の強度と風力 との関係から樹木転倒危険性の推定方法を考 察した。

周辺自治体の防災対策に協力
緑化と法面強度の関係性以外にも、防災上 の観点から周辺自治体と協力し、地域の地盤 性状やハザードマップ作成の助けとなる雨量と 河川水位の相関などの研究を行っている。 近隣平塚市では、常時微動を測定し、地震時 の地盤の増幅特性や地盤種別など地盤性状を 調査。 伊勢原市では、開発した小型で安価な水位 計を洪水が危惧される小規模河川に設置した り、土砂災害特別警戒区域内の地盤性状の調 査に協力したりした。伊勢原市の大山は年間 100 万人が訪れる観光地として有名だが、大山 地区を襲った山津波については余り知られて いない。1923 年9 月1 日の関東大震災後の 大雨で、大規模な土石流が発生して人家が流 出し、多くの人命が失われた。杉山教授は、土砂 災害のリスクのある場所を洗い出し、通信機能付きの地滑り計の設置を提案。伊勢原市が見回りによる目視で危険性を判断していた河川の水位も、先述のようにカメラ付きの水位計で遠隔監視できる仕組みを構築した。コロナ禍の前は、学生と一緒に地表変位計や水位計の設置に適した場所を探したという。
研究は自分で考え行動する
大学のユニバーシティビューローのゼネラルマネージャーを兼務する杉山教授は、自身の研究だけでなく学生全般の教務、学生生活などを支援する幅広い業務を担っているため、研究室に所属する学生の人数を制限しており今期は 7人の体制。全員、地盤研究を究める意思を持っ て、杉山研究室を選んでいる。 毎年、研究室に配属されたばかりの4 年生に は「研究は待っていては進まない、自分で考え、 動くように」と指導。一方、卒業時には「20代 を頑張れば30 代が少し楽できる、30 代を頑張 れば40 代が楽できる。つまり、目の前のことを しっかりとこなし実力をつけることで新しい道 が開ける。それと、いつでもメモがとれるよう小 さなノートを持ち歩きなさい」と言って送り出 しているそうだ。
研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
①杉山研究室を選んだきっかけ
②杉山先生の魅力
③自身の研究テーマ
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伊藤美咲さん いとう みさき 修士1年
①地盤が興味があった。杉山先生や先輩の院生が魅力的だった。
②誠実さや優しさが伝わる。
③締固め度の異なる地盤の緑化用植物の根系の成長観察 -
小方彪夢さん おがた あやん 学部4年
①運動部で鍛えた体を生かせる研究室。
②提出部や成果物に手厚く指導してくれる。
③廃瓦を混合した廃コンクリート材料の路盤材料としての適用性 -
近藤慧太さん こんどう けいた 学部4年
①地盤について詳しく学びたいと思った。
②さまざまな課題に対し親身にアドバイスしてくれる。
③法面緑化による地盤補強効果 -
佐久間智大さん さくま ともひろ 学部4年
①土質工学はさまざまな分野に応用できると考えた。
②学生に真摯に向き合ってくれる。
③廃瓦を混合した廃コンクリート材料の路盤材料としての適用性 -
瀧田吏さん たきた つかさ 学部4年
①法面補強に関わる仕事に興味を持ち、研究を将来仕事に生かしたいと考えた。
②土木について興味、関心を持たせてくれる。
③法面緑化による補強効果 -
綱島千里さん つなしま ちさと 学部4年
①野球が好きで将来野球場建設に携わりたく、地盤について学ぼうと思った。
②社交的。プライベートでも声をかけてくれ親しみやすい。
③法面緑化 -
長谷川天晴さん はせがわ てんせい 学部4年
①研究室の説明会で地盤に興味を持った。
②誰にでも分かりやすく説明してくれる。
③法面の緑化
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