研究室インタビュー

東海大学工学部土木工学科 鈴木美緒研究室 交通工学・交通計画のサムネイル

安全、安心で快適な移動環境を創出する

東海大学

鈴木美緒研究室 交通工学・交通計画研究室

鈴木美緒准教授

交通工学、交通計画を専門領域とする鈴木 美緒准教授は、幅広い切り口で交通行動の性 質を解明し、事故の削減に向けた安全で安心な 交通空間や自動車・自転車走行についてさまざ まな研究に取り組んでいる。 警察庁の統計資料によると、2020 年の全国 の交通事故件数は309,178 件で、そのうち65 歳以上の高齢者の原付き以上運転者の交通事 故件数は全体の23.7%の68,580 件。また自 転車関連交通事故件数は67,673 件、全体の 21.9%だった。高齢者による自動車事故は、現 役世代と比べれば圧倒的に少ないが、事故原因 の逆走、アクセルとブレーキの踏み間違いやハ ンドル操作の誤りなど「運転操作不適」の割合 が現役世代の2倍以上。そのため急発進や暴走 などを起こし、ニュースなどで大きく取り上げ られやすい。

鈴木美緒准教授

鈴木美緒准教授

博士(工学)

(すずき・みお)

2001年 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業
2003年 同大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程修了
2006年 東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻博士前期課程修了
2009年 同大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻博士後期課程修了、学位取得。財団法人運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員
2010年 東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻助教
2016年 同環境・社会理工学院土木・環境工学系都市・環境学コース助教
2017年 東京大学生産技術研究所人間・社会系部門(第5 部)特任助教
2018年 東海大学工学部土木工学科特任准教授
2021年 同工学部土木工学科准教授

高齢運転者による事故原因解明へ

なぜ高齢者は、そのような行動をとってしまうのか。鈴木准教授は、高齢運転者の事故原因解明の一つの研究として、軽度認知障害ドライバーの運転挙動と意識について調査した。被験者の認知機能を事前に検査して自動車教習所のコースを実走してもらい、運転挙動や視認挙動などの生体反応をビデオで観測。認知機能の疑いのある高齢ドライバーは、車庫入れ時やS字カーブ通過時に軌道修正を怠ったり指示を複数出された時に対応がおろそかになったりする傾向が見られ、ウィンカー操作や細かい安全確認のタイミングで危険挙動がより発現しやすいこと、また認知症の疑いの有無を問わず一時停止が甘いなどの危険挙動を確認した。「落ち着いているときは問題ありませんが、意図していないことが起きると、焦って運転が荒くなる、操作を誤るなどの挙動が見られました。調査結果を踏まえ、ナビを活用した誘導、継続的な訓練など平常心を保てる具体的な方法を提供したいと考えています」高齢化がさらに進行していく日本社会で、交通工学の観点から高齢運転者の事故防止策を導き出し、道路計画、都市計画に反映させようとする研究は非常に有意義と言えるだろう。

インタビュー画像
インタビュー画像

路面のトリックアートで減速実現

神奈川県大和市では、2020年度に「ゾーン 30」区域内の路面表示に関するプロジェクト を実施。 ゾーン30 は、歩行者などの安全を守るため 時速30km 以下に制限速度を抑える交通安全 対策で、幹線道路に囲まれた住宅地などに導入 されている。しかし、交通渋滞を避ける抜け道 として利用されることも多く、歩行者の安全確 保が課題となっている。 鈴木研究室は、大和駅に近い住宅、商店が混 在する地区をフィールドに自動車や歩行者の 交通量、平均速度、自動車運転者の視線移動な どの調査し、そのデータを基に道路の左右に縁 石があるように見える表示を提案。この提案は 具体化され、トリックアートによる狭さくやハ ンプが現れる錯視サインが設置された。 「道路を凸状に隆起させたハンプが最も減速 効果があるとされていますが、車が通るたびに ガタンガタンと音がするため、住宅地では騒音 が課題となります。狭さくを立てると、自転車 走行に影響が出ます。そこで大和市では、自動 車運転者の目線からは本物の狭さくやハンプ に見えるトリックアートを路面に制作しまし た。施工後、研究室の学生が調査したところ、 自動車の速度が抑制され、1 年後も効果が保た れていることを確認しました。他のゾーン30 に も、こうした取り組みを広げられることを期待 しています」

インタビュー画像
インタビュー画像

トリックアートで制作された狭さく㊧とハンプの錯視サイン

自動車と自転車が共存する道路空間

自転車と自動車が共存できる道路のあり方 も鈴木准教授の主要な研究テーマ。学位を取 得した「自転車配慮型道路の安全性と設計方 針に関する研究」と題する博士論文では、自転 車の走行ルールが厳格に定められていないころ に、自転車走行の安全を確保できるレーンの幅 員、線の色、デザインなどを考察。2012 年に 国がまとめた「安全で快適な自転車利用環境 創出ガイドライン」に研究成果の一部が反映されている。 「提案した自転車走行レーンの幅員は1m以 上ですが、国内では75cm が主流となっていま す。国の政策では、車が通れる幅を決めた上で その外側を自転車レーンとしているため、狭い 道路では、十分な自転車専用レーンを確保しに くいのが実情です。そこで、住宅地内の狭い道 などでは、自転車走行を優先しながら車の走行 を認める自転車レーンを設けることを提案して います。もともと路地や裏道は、自動車の制限 速度が遅く交通量も少ないため、自転車を優先 させても、交通への影響は軽微だと考えます。 一方、自転車利用者が車道を走行にすることに 危険を感じるのも当然です。ドライバーが自転 車レーンを視覚的に認識しやすいデザインをは じめ自転車利用者に安心感を与えられる走行 空間が求められています。大きな幹線道路の場 合、自転車歩行者道(自歩道)が整備されてい るところもありますが、自転車は車道寄りを徐 行するルールをしっかり守ることが重要です」

電動アシスト自転車の事故が増加

地球温暖化が世界的な課題となる中、燃料を 使わない自転車は環境負荷の低減に貢献し、健 康増進にも有用な交通手段として、利用の促進 が推奨されている。中でも、電動アシスト自転 車の人気が高く、この15 年間で販売台数が約 3 倍に増加。比例するように、電動アシスト自転 車の事故が多発している。 鈴木准教授は、高齢の電動アシスト自転車利用者を対象にGPSを取り付けて調査を実施。走行データから、速度を出し過ぎているという認識が欠如し、速度の出やすい経路を好んで選択しているため、一時停止が定められている交差点でも止まりたくないという心理が働いて不停止や飛び出しによる事故につながっていると分析した。

加えて、電動アシスト自転車は自重が重く、 安定走行するにはある程度の速度が必要で、 徐行するとかえって転倒のリスクが高まるとい う。子どもを乗せて電動アシスト自転車に乗っ ている母親に対するアンケート調査では、6 ~ 7 割が転倒した経験があると回答している。近 く、電動アシスト自転車のこぎ出しの不安定感 をなくせるよう、自転車メーカーと規格変更の 可能性について研究を始める予定だ。 鈴木准教授は、東京都自転車活用推進計画 検討会にアドバイザーとして参画しており、「強じんで持続可能な都市づくりを進める視点から高齢者、子どもも安全、安心に走行できる自転車推奨ルートの整備を順次、具体化していく計画です」と話す。鈴木研究室は産官学の共同研究が多く、学生は外部の関係者と意見を交わす機会に恵まれている。卒業後は、大半がインフラ関連の職種を志望しており、ゼネコンや建設コンサルタント、自治体などに就職。企業や行政がインフラ整備で担う役割、具体的な業務内容など生の声を聞けることが、就職活動で生かされているようだ。

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①研究室を選んだきっかけ
②先生の魅力
③自身の研究テーマ

  • 加藤輝久さん かとう・てるひさ 学部4年

    加藤輝久さん かとう・てるひさ 学部4年

    ①交通計画での対応、環境的な課題解決が高齢者運転事故防止につながると考えた。
    ②説明が分かりやすい。学生一人一人に親身に接してくれる。
    ③都市部(東京都23 区)における高齢者の免許返納について

  • 川邊達也さん かわべ・たつや 学部4年

    川邊達也さん かわべ・たつや 学部4年

    ①幼少期から乗り物が好きで、自分の興味ある交通計画について卒業研究で取り組みたいと思った。
    ②質問に対し、知りたかった答えの100%以上に答えが返ってくる。
    ③両側2 車線道路におけるPTPS(公共車両優先システム)の導入の予測・検討

  • 佐藤鴻輝さん さとう・こうき 学部4年

    佐藤鴻輝さん さとう・こうき 学部4年

    ①交通計画の講義で、この分野に興味を持った。
    ②相談、質問をしやすく、講義やゼミも学生の都合に合わせてくれる。
    ③あおり運転の発生場所と道路構造の関係

  • 高須祐樹さん たかす・ゆうき 学部4年

    高須祐樹さん たかす・ゆうき 学部4年

    ①交通事故の多い愛知県出身で、事故の原因、事故を防ぐ対策を知れば事故削減に貢献できると考えた。
    ②論文作成、研究、就職などについて丁寧にアドバイスしてくれる。
    ③ローカルルールとストレス感情について

  • 長谷川達也さん はせがわ・たつや 学部4年

    長谷川達也さん はせがわ・たつや 学部4年

    ①鈴木先生の統計学の授業がおもしろかった。交通にとらわれず多岐にわたって研究している。
    ②自分の研究テーマを否定せず、研究の進め方の指針を示してくれる。
    ③新型コロナウイルス感染症が及ぼした移動手段の変化

  • 平田颯人さん ひらた・はやと 学部4年

    平田颯人さん ひらた・はやと 学部4年

    ①幼少期から鉄道を利用するのが好きで、交通工学に興味を持った。
    ②学生の自主性を尊重してくれる。相談には答えを出さずヒントを与えてくれ、自分で回答を見つけ出させる教育が魅力。
    ③高齢者を対象とした自転車利用時の行動分析

  • 望月侑貴さん もちづき・ゆうき 学部4年

    望月侑貴さん もちづき・ゆうき 学部4年

    ①交通工学、交通計画の研究がしたかった。
    ②いつも的確なアドバイスをしてくれる。学生に親身になって教えてくれる。
    ③運転中の感情と事故への影響

  • 山田竜矢さん やまだ・りゅうや 学部4年

    山田竜矢さん やまだ・りゅうや 学部4年

    ①車やバイクの運転が好きで、道路、交通安全、交通システムについて深く知りたいと思った。
    ②交通分野の最新情報を幅広く知っている。
    ③横断歩道青点滅時の小学生の行動分析

  • 吉田城司さん よしだ・じょうじ 学部4年

    吉田城司さん よしだ・じょうじ 学部4年

    ①将来、道路が電気と融合すると考え、交通の変化を予測できると考えた。
    ②学生の自主性を大事にしてくれるので、自分の研究に自然と深めていける。
    ③国道246 号における脱炭素自動車のニーズ調査

  • 吉田朋矢さん よしだ・ともや 学部4年

    吉田朋矢さん よしだ・ともや 学部4年

    ①鈴木先生の印象と、交通計画に関する研究への興味から。
    ②話しやすい、相談しやすい。学生に配慮してくれる。
    ③オリンピックレガシー

本記事内容は、こちらからもダウンロード可能です。

本記事内容掲載PDFデータ