研究室インタビュー
カーボンニュートラルな建築・都市をつくる
東海大学
|建築・都市環境設備計画 山川智研究室
山川智 教授
「河川の熱で都市を暖める」と聞いてピンとくる人はそう多くはないだろう。建築・都市環境設備を専門とする山川智教授は「河川は優秀な再生可能エネルギー」と言う。
山川智 教授
博士(工学)
(やまかわ・さとし)
1969年 東京都生まれ
1993年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1995年 早稲田大学大学院修士課程修了
1995年 東京電力㈱入社(~2021年)
2021年 芝浦工業大学大学院博士課程修了
2021年 東海大学工学部建築学科教授
「再生可能エネルギー熱」に着目
建築環境設備は建物の空調や照明を扱う分野だが、都市環境設備はより広い範囲、例えば、丸の内やみなとみらいというような複数の建物の建つエリアが対象となる。「もともと建築の意匠設計をやりたいと思って勉強していましたが、大学3年生のときに授業 を受けた都市環境設備に興味をもちました。建 築や都市をデザインするときに環境面からアプ ローチすると、人々が快適に生活する都市空間 の創造や、エネルギー問題の解決を図ることが できると考えました。そして人や社会の役に立 つことに、やりがいを感じました」と山川教授は 現在の専門分野との出会いについて振り返る。 大学院修了後は東京電力に入社。省エネル ギー、環境負荷削減の取り組みに従事した。最 近「再生可能エネルギー」という言葉はよく耳 にするようになったが、ここでイメージされる のは太陽光発電や風力発電ではないだろうか。 「これらは再生可能エネルギー電気というもの です。それとは別に再生可能エネルギー熱があ ります。電気への関心は高く、住宅用太陽光発 電の普及やメガソーラーの導入が進んでいます が、熱エネルギーについてはあまり認知されて いません。ところが日本のエネルギー需要の約 7 割は熱なんです(約3 割が電気)。こちらに本 格的に再生可能エネルギー熱を導入していか ないとカーボンニュートラルは実現しません」
河川水の熱を利用して沿岸地域を冷暖房する
ここで河川水の熱が有効となる。山川教授は 東京電力在籍時、隅田川に面した箱崎地区の 地域冷暖房施設の仕事に携わっていた。 「冬、外気温が0度のときでも河川水は10 ~ 15 度くらい。ヒートポンプという機械で、 15 度の水から3 度分の熱だけをもらい、地域 を暖房します。そして12 度になった水は川に 戻します。晴天時しか利用できない太陽光発電 と比べ、常時利用できるのが河川水の熱の特 長です。箱崎地区は日本で初めての試みとして 1989 年に供給を開始しました。計画時に綿密 な調査をして、生態系に影響を与えない温度や 水量を確認して運用しています。私はその後の リニューアルを担当し、再生可能エネルギー熱 を利用する技術の確立や普及につとめました」 現在、河川水や海水の熱を利用する地域熱供 給プラントは全国8 か所にまで広がっている。
ZEBの実現とゼロカーボンキャンパス計画
2021 年春に立ち上がった山川研究室の一番のテーマはカーボンニュートラルの実現だ。「日本はこの100年で気温が1度上昇しました。 今、排出しているCO2 の影響は時間をかけて次 の世代に出てきます。高校生や大学生、まさに この冊子の読者の世代が影響を受けるのです。 地球温暖化はなんとなく遠い世界のことのよう に感じているかもしれませんが、少しずつ皆さ んの身の回りに影響が現れてきます」 では今すぐにできることは何だろうか?現 在、山川研究室でテーマとしているのは、ZEB の実現とゼロカーボンキャンパス計画だ。 ZEBとは、Zero Energy Building の略で、省 エネルギーと再生可能エネルギーを組み合わせ て、エネルギー収支をゼロにする建物のことで ある。ZEB はこれまで主にオフィスビルについ て研究が進められてきたが、山川教授は病院の ZEB化に取り組んでいる。「病院は浴室や病院 食用の厨房でお湯をたくさん使います。一方、 CT やMRI などの医療機器もエネルギーを消費 し、それら医療機器のオーバー ヒートを防ぐために常に冷房 しています。トータルで非常に エネルギーを使い、オフィスビ ルの2倍近くになります。そ こでヒートポンプを使って、医 療機器から24 時間発生して いる熱を集めて、お湯を沸か す仕組みについて研究してい ます。病院のエネルギー消費 量を押し上げる要因を逆手に とって省エネルギーに活用する考え方です」 学生にとってはキャンパスのゼロカーボン化 は身近な問題だ。「ここ湘南キャンパスは中央 の南北方向にけやき並木が通っています。そし て風が南から北に吹き抜けて、なだらかな丘を 上がったところにちょうど風を受け止めるよう にY 字型の1号館が建っています。そこで、下 階から取り込んだ涼しい風が建物中央のスロー プを上に抜けていくような自然換気の仕組み を構想しています。自然換気はZEB の基本的 な手法ですが、これだけ広大なキャンパスを流 れる風を取り込む事例はないので、東海大らし い提案になると思います。研究室立ち上げ2 年 目となる2022 年度からは、研究室メンバーが 15 人に増えますので、さらに新しい研究に取り 組みたいと思っています」 山川研究室ではこれらの研究に加え、町田市 の企業が開発した「香りセンサー」を活用した 「オフィス空間における香りのデザインに関す る研究」など、新たな分野の研究にもチャレン ジしていくという。
世の中を動かす熱い想い
社会に出れば技術を持つ人はたくさんいる。 そこから一歩抜け出す人は何が違うのか? 山川教授は若い人への想いを語る。 「知識や技術を身につけるために、たくさん勉 強して欲しいと思います。ただそれだけでは世 の中は動きません。社会を変えるには新しいこ とを考え、突き動かすパッションが必要です。今 感じている" こうなったらいいな" という純粋 な想いを大切にしてください。将来、その内な る想いをカタチにできたとき、仕事の醍醐味や 楽しさが実感できると思います」。
研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
①山川研究室を選んだきっかけ
②山川先生の魅力
③自身の研究テーマ
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天田ゆいのさん あまだ・ゆいの 学部4年
①研究室のテーマに関心があった。先生の人柄に惹かれた。
②研究に行き詰まると何時間も一緒に考えてくれる。
③住宅の夏期の窓開放に関する意識と実態 -
岩田明紘さん いわた・あきひろ 学部4年
①医療施設のZEB 化に興 味があった。
②学生の背中を押してくれ、困った時に手を差し 伸べてくれる。
③寒冷地の病院施設における省エネ効果の検証 -
清水詩織さん しみず・しおり 学部4年
①照明設備に興味を持った。
②優しく話しやすい。学生人一人の話を丁寧に聞いてくれる。
③夏期の住宅の涼の取り方の経年変化について -
牛丸友希さん うしまる・ゆうき 学部3年
①建築設備に興味があった。優しいイメージが あった。
②面倒見が良い。説明が丁寧。
③都市排熱利用DHC の運転効率分析 -
前田愛果さん まえだ・あいか 学部3年
①授業で環境設備に興味 を持った。
②動物に優しい。相談しやすい。研究室がきれい。
③病院建築のZEB 化に向けた研究
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