研究室インタビュー

前橋工科大学工学部建築学科 北野敦則研究室のサムネイル

命を守り、サスティナブルな構造設計を実験・開発する

前橋工科大学

北野敦則研究室

北野敦則 教授

日常生活で「この建物は壊れないだろうか?命は守られるだろうか?」と疑問に思う人はどれほどいるだろう。ニュースで建物が壊れた映像を目にした時、
安全は当たり前ではないと気づき、見えない構造部分の重要性を考えさせられる。北野敦則教授の研究テーマはまさに見えない部分。鉄筋コンクリート
構造や鋼とコンクリートで構成される各種合成構造における部材の耐震性能実験や解析、新しい鋼コンクリート合成構造の開発研究などさまざまだ。

北野敦則 教授

北野敦則 教授

 

(きたの あつのり)

1992年 北海道大学工学部建築工学科卒業
1993年 同大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了
1993年 同工学部助手
2007年 同大学院工学研究科助教
2012年 前橋工科大学工学部建築学科 准教授
2021年 同 教授

コロナ禍の物流倉庫建設に貢献

5年ほど前に建て替えられた実験棟は、北関東の大学で最大級だ。これは北野教授がしっかりとした研究開発可能な施設の重要性を訴え、前橋市の協力もあり実現した。実験環境の重要性に強い思いがあるのは、北海道大学在学中、鉄筋コンクリート構造のせん断耐力式で有名な大野・荒川式が導きだされた研究室で、日夜、試験体の製作をしては、加力実験を繰り返し、修士、助手として約20年間研究に没頭してきたから。また、北野教授は「とにかく実験が好き、実験では予想と違う壊れ方をすることがある。なぜそうなったのか、実験をやって初めてわかることもある。そういうことが分かった時のおもしろさがコンクリート研究を続けられてきた理由です」と生き生きと話す。

2000年に建築基準法が改正され、建築物の設計 自由度は高まり、「現在は、RC(鉄筋コンクリート) と鉄骨を組み合わせた合成構造が多種多様に開発さ れ急激に増加している。構造物の安全性、経済性、 施工性を考えると今後もこのような合成構造が採用 されていくと考えられる」。 北野教授の研究テーマに、RCと鉄骨の接合部を 網羅した設計法の研究がある。「RC柱部分と鉄骨 梁部分の設計はそれぞれ確立されていますが、柱と 梁の交わる部分、鉄筋コンクリートと鉄骨が交わる 接合部分の設計基準は確立されていません。ゼネコ ン各社は、実験施設を持っていて、構造評定、特 許を取り、独自に指針を作成し、国交大臣に認可を 受けることができます。ですが一般の設計者は設計し たくてもその設計手法の参考に なるものがないので、 何もできない状況がありました」 2021年2月に日本建築学会から「鉄筋コンクリー ト柱・鉄骨梁混合構造設計指針」が発行された。 北野教授も執筆者の一人だ。この指針が出たことで、 一般の設計事務所が手軽に構造を採用できるように なった。コロナ禍で建設需要が高まった物流倉庫の 建設にこの指針が活用され大きな役割を果たしてい る。現在も学生たちと実験を行い、指針に関する追 加の研究を行っている。

インタビュー画像
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大型構造物試験機

地震大国日本で命を守り、サスティナブルな構造設計を開発

地震大国日本で命を守り、サスティナブルな構造設計を開発
学生時代から研究してきたSRC(鉄筋鉄骨コンクリート)構造について、北野教授は「地震大国日本において、独自に発展してきた構造で、海外ではSRCを知らないことが多い。1995年の阪神淡路大震災でもSRCの建物の被害は少なかった。2000年までは6階建て以上の建物は基本的にはSRCで建てるよう行政指導があった。技術力の発展で、免震や制震、高強度材料が出てきて、RCで高い建物を建てられるようになり、費用や設計施工の複雑性からSRCが使われなくなってきた。ただ耐震性能は高いので、どんな強い地震がきても、壊れるかもしれないが、つぶれない建物、人の命を建物が奪ってはいけないので、空間を確保できる建築を作りたい」。SRC構造採用のネックになっている施工性の煩雑さを軽減し、簡略化した新しいSRC構造の研究開発も行っている。「他にも開発系の実験で、今までにない構造を開発しています。異種構造・異種材料を組み合わせた構造は、力学的にそれぞれの弱点を補い、さらにはそれぞれの長所を引き出すことができ、その組み合わせは多種多様に考えることができます。建築においても環境に優しいものを作りたいので、リユースやサスティナブルなものを作りたいと思っています。例えば地震が起きたとき、ある部分をあらかじめ弱くしておいて、そこでエネルギーを吸収させて壊し、その部分だけを交換する。構想段階ですが、そんなことも考えています」新しい構造開発は、未来の建築の常識を変えていくかもしれない。

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振動させ隙間がないようコンクリートを入れる

実験は研究だけでなく、自主性や社会性を育む

北野研究室は、実験的研究を主な研究手法とし、 春から秋になるにつれ、実験のペースも上がってくる と言う。 「 皆でワイワイやって欲しいと思っています。学生た ちが工程表を決めています。リーダーを決めたり、皆 で何をどうするか決めたりしています。皆で協力して 作業することで、自主性やコミュニケーション能力が 自然に身につくと思います。それは社会に出ても生か される技術だと思います」。 また、北野教授は入った学生たちに、まず建築業 界についてレクチャーする。その理由はこんな思いが あるから「どんな形でもいいので、建築に携わってほ しい。社会基盤を形成しているのは建築業界だと思 うので、人の命を預かっているとか社会の基盤を支 えているという意識をもって頑張ってほしいと思って います」。

インタビュー画像
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研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

①北野研究室を選ばれたきっかけ
②北野先生の魅力
③ご自身の研究テーマ

  • 石田圭さん いしだけい(修士2年)

    石田圭さん いしだけい(修士2年)

    ①一から実験試験体を作り、自分の目で見て研究、解析できる。
    ②器の大きさや、優しさ。
    ③ふさぎ板形式の柱コンクリート・梁鉄骨構造柱梁接合部の終局耐力に関する3次元有限要素法解析

  • 小田部稔也 こたべとしやさん(学部4年)

    小田部稔也 こたべとしやさん(学部4年)

    ①鉄筋組みからコンクリート打設まで行い達成感がある。
    ②気さくで話しかけやすい。
    ③緊張力変動抑制装置を用いたアンボンドPCaPC構造におけるボルトダンパー開発

  • 佐藤柊二さん さとうしゅうじ(学部4年)

    佐藤柊二さん さとうしゅうじ(学部4年)

    ①構造系は建築の基礎で就職に 有利かもしれないと思った。
    ②距離が近く、相談しやすく、気さく。
    ③ 緊張力抑制装置を用いた PCaPC構造

  • 森慶彦さん もりよしひこ(学部4年)

    森慶彦さん もりよしひこ(学部4年)

    ①構造系の研究が希望で、コンクリートの打設もできる。
    ②授業がとても丁寧でわかりやすい。話やすく、優しいところ。
    ③RCS構法における梁幅の影響。

  • 田部井優揮さん たべいゆうき(学部4年)

    田部井優揮さん たべいゆうき(学部4年)

    ①構造系で大規模な実験ができる。協力して作業ができる。
    ②実験棟の作業時に工具の扱いなどにたけている。
    ③1/3サイズのRC造建物を対称とした解析、比較検証

  • 斉藤大樹さん さいとうだいき(学部4年)

    斉藤大樹さん さいとうだいき(学部4年)

    ①構造系に興味を持ち、一から試験体を作り、実験するため。
    ②話しやすさ、おもしろさ、時々みせる茶目っ気。工具等の扱い。
    ③RCS構法における柱幅の影響

  • 石森瑛さん いしもりあきら(修士1年)

    石森瑛さん いしもりあきら(修士1年)

    ①構造分野が計算で導きだせる。構造系で実験ができる。
    ②問いかけると必ず答え、心優しく生徒を大切にしている。
    ③施工性を簡略化したSRC造の開発

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