研究室インタビュー

東北工業大学工学部建築学科 有川智研究室のサムネイル

建築の全プロセスを探求する“何でも屋”研究室

東北工業大学

有川智研究室

有川智 教授

有川研究室は建築・材料の生産・流 通、設計・施工、供用・維持管理そし て解体・廃棄・リサイクルに至る、建 築の全プロセスを研究テーマにしてい る。もともと大学在学中の専門は材料 だったが、その後研究対象が広がり、 全体をどううまくまとめるかと考えたと ころ、研究分野が広くなった。建築に 関わる計画的な視点や構造的な視点、 環境的な視点も含めて、研究テーマを 決めていく “ 何でも屋” 研究室だ。 例えば、建築物の長寿命化をテーマ として、良いものをつくるための適切な 生産体制や維持管理に関する研究、 建築物がより良く歳を重ねていくために 残存する建築性能を把握するための研 究、建築物の歴史的・文化的側面の 評価に関する研究など、ハード分野か らソフト分野まで幅広い。 「建物の寿命は構造や 材料の物理的劣化の側 面だけでなく、使い勝手 や流行といった計画的側 面、維持管理などにかか る経済的側面、そして建 築基準や都市計画など の法律・制度的な側面な ど、実に多く要因が関係 します。一見関係のなさそうな分野の 知識も、それらがつながっていき、全 体を総合的に捉えることが私の研究室 の魅力だと思います」

有川智 教授

有川智 教授

博士(工学)

(ありかわ さとし)

1963年 仙台市生まれ
1987年 東北大学工学部建築学科 卒業
1989年 東北大学大学院博士前期課程 修了
1989年 東北大学工学部・助手、講師
1997年 建設省建築研究所・主任研究員
2001年 国土交通省国土技術政策総合研究所 (国総研)・主任研究官
2004年 国土交通省国総研・住環境計画研究室長
2004年 同済大学土木工程学院( 上海)・招聘専門家
2007年 独立行政法人建築研究所・上席研究員
2010年 国土交通省国総研・住宅生産研究室長
2012年 東北工業大学工学部建築学科・教授
2013年 国立研究開発法人建築研究所・客員研究員
趣 味 国内外の骨董市巡り、スキー、パラグライダー(休眠中)

建築のさまざまな問題をマクロ的視点でアプローチ

研究室に入ってくる学生のほとんどは、既存住宅のマネジメントや空き家問題を研究テーマにすると、住む人、利用する人、そして地域にとって有効な活用方法を提案していくアプローチが多い。これに対し研究室のアプローチは、よりマクロな視点になる。「建築はストックが蓄積されているが、経済的・資産的な豊かさとしては積み上がってはいない。コストをかけて延命化し、長く残すことが、かえって負の資産を積み重ねることになるのではないか」といった観点で研究テーマに落とし込む。同じように空き家問題を扱っても、そのアプローチの方法は全く異なる。ベースには、既存住宅の性能把握・評価があり、安全性や快適性を向上させるために耐震改修や省エネ改修、バリアフリー改修などを進めるが、今の住宅性能表示や長期優良住宅の制度は普及していないことが課題になる。「結局はしっかりと手を入れて、手間をかけ、建物を維持していても適正に評価されない世の中の仕組みになっています。それを変えなければ実際に良いものが残っていかない」と警鐘を鳴らす。あらかじめ自分の代だけ使えればいいという建築があるのは当然だが、今あるストックを延命措置的に長寿命化させようという研究ではなく、歴史的・文化的価値も含め社会全体として本当にそれが良質なストックになっているか、評価できる研究を行っている。

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地域の森林資源を調査

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いいものをきちんと手入れして長く大切に使う / 地域工務店の施工現場を調査

単なる延命措置でなく、収益が上がるストック活用を

公共施設の総合管理計画や長寿命化も重要な研究テーマだ。話題になった宮城県美術館の移転問題については「担当部署の担い手が縦割りで、公共施設等総合管理計画を策定した部署と美術館のリニューアル基本方針を出した部署、施設の再編に関する基本方針を出した部署が、十分連携していないといったことも問題だし、誰が責任をもって施設の管理を担うのかという仕組みを作っていかなければならない」と指摘する。横浜市にある横浜地方気象台の改修工事をたびたび題材に取り上げる。横浜地方気象台は港の見える丘公園と外人墓地の間、観光地の真ん中にある。安藤忠雄氏の設計により昭和初期に建てられた本館の改修に併せて、新館を建設し2009年に落成した。当初計画では本館改修に平米当たり20数万円、新館は35万円程度を試算。終わってみると本館改修には倍以上の費用がかかった。「詳細な積算をしていなかったため、仕上げ工事をする中で、中がぼろぼろだということが明らかになった。残存している性能の評価と改修にかかる費用。それを使う人たちを含めて決めていかなければならない」という教訓が得られた。公共施設をはじめとする高齢化したストックをこれからどうしていくか。「単なる延命措置で長寿命化を図るのではなく、収益が上がりビジネスとして成り立つストックの活用が必要だ」

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住宅の解体現場および建設発生木材を調査

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製材工場・流通過程を調査

自分のやるべきことを考え社会に還元

学生は3 年生の後期から研究室に配属されるが、有川研究室では「与えられたことをこなすだけでなく、主体的に自ら考え粘 り強く行動できる学生であること」を受け 入れの条件に掲げる。ゼミを進める中で教 授から指示されたことだけをこなしていくという研究スタイルではなく、まず自分で動き、 それに対して教員、先輩がサポートする。 あらかじめ決められた研究テーマを与えるのではなく、学生の興味に合わせて研究テーマを設定する。3 年生の時はさまざま なことを吸収し、興味を深めてもらう。4 年生になると研究室でやっている研究領域 に照らし、日本の社会で抱えている建築的な課題と自分が関心を持ったこととどうい う関係にあるのか、社会全体の問題として自分の興味、研究課題をしっかり位置付け てもらい、その上で研究テーマ(卒論)に なりうるのかを判断する。その後、テーマ が近い学生同士がグループになり、個別に連動しながら全体を俯瞰した中で「自分の 研究はどういう意味があるのか」を考えさ せ卒論を書いてもらう。自分が興味を持て ないと責任感が芽生えない。研究生には、 興味の絞り込みをし、それぞれの問題、課 題をプレゼンさせながら揉んでいくやり方 を指導する。 卒業後の進路はゼネコン4 割、住宅関 係3 割で、管理関係、改修などを含めた不 動産分野のほか公務員志望となっている。 少ないながら大学院に進む学生もおり、その学生には国の研究機関などとの共同研 究に参画させ、基礎から研究のあり方を叩 き込んでもらっている。「自分たちのやっていることは小さいことかもしれないが、それが社会において少なからず意味を持つということと、全体を俯瞰する力を身に着けてほしいと考えています」と有川教授は話 す。全体の動きを見ながら、自分がやるべきことを考え、社会に還元する。それが有 川研究室の方針である。

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横浜地方気象台(事業評価の技術指導事例)

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建設技能者の育成講座

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ゼミ風景

研究室メンバーに聞きました

[ 質問項目 ]

1 研究室を選んだ理由
2 研究室(もしくは先生)のよいところ(魅力)
3 自身の設計/研究のテーマ
4 10年後の自分(理想)

  • 秋保 来瑠美 さん 学部4 年

    秋保 来瑠美 さん 学部4 年

    1雰囲気が良かったことに加え、研究テーマに興味があったため
    2とても優しくなんでも相談に乗ってくれます

  • 阿部 弥樹 さん 学部4 年

    阿部 弥樹 さん 学部4 年

    1研究内容( 木材のこと) に興味があったからです
    2担当の有川先生がまるで父親かのように親身になって進路について相談してくれるところ。研究室の先輩の雰囲気が柔らかいおかげで特に気を張ることも無くいられるところが魅力的です

  • 児玉 洋夢 さん 学部4 年

    児玉 洋夢 さん 学部4 年

    2自分のペースに合わせて研究を進められる点
    3公共施設の工事種別の研究

  • 小松 日花利 さん 学部4 年

    小松 日花利 さん 学部4 年

    1雰囲気がよく、自分のペースで研究できると思ったからです
    2学生1人1人を気にかけてくださり、優しいところです

  • 高屋 亜美 さん 学部4 年

    高屋 亜美 さん 学部4 年

    1木造建築にとても興味があったから
    3中大規模木造建築の利用促進について

  • 早坂 竜治 さん 学部4 年

    早坂 竜治 さん 学部4 年

    1建築工事会社の選定など建設業界を深く学べると思ったから
    2入札から木造や維持管理など広く学べるところ

  • 森 真紘 さん 学部4 年

    森 真紘 さん 学部4 年

    1自分のペースでやりたい研究ができるから
    3中高層建築物における木材の利用促進について

  • 三浦 莉奈 さん 学部4 年

    三浦 莉奈 さん 学部4 年

    1自分自身がやりたい研究ができ、また就職活動にも生かせると思ったから
    2やりたい研究ができる

  • 吉澤 大和 さん 学部4 年

    吉澤 大和 さん 学部4 年

    1公共施設関係のことを研究したいと思ったから
    2教授の知識が幅広くどんな質問にも丁寧に答えてくれるところ

  • 植松 歩夢 さん 学部3 年

    植松 歩夢 さん 学部3 年

    1木造建築をはじめとする材料に興味があったため
    2木材について多くの知見を持っており、研究したい内容にぴったりであること

  • 大山 聡太 さん 学部3 年

    大山 聡太 さん 学部3 年

    1研究テーマを自分で決められるところ
    2ソフトの面からハードの面まで幅広く研究を行い、建築の価値を様々な側面から多角的に評価できるところ

  • 齊藤 弘高 さん 学部3 年

    齊藤 弘高 さん 学部3 年

    1建築の全体の流れを理解することが出来る有川研究室を選びました。また、材料によって、建物の表情が変わる事にも興味を持ち決めました
    3素材とデザインについて

  • 髙橋 翔弥 さん 学部3 年

    髙橋 翔弥 さん 学部3 年

    1住宅のライフサイクルについて研究したいから
    3住宅のライフサイクル

  • 髙橋 舞桜 さん 学部3 年

    髙橋 舞桜 さん 学部3 年

    1住宅建築に興味があり、住宅の材料の1つである木材についての研究をしたいと考えたためです
    2優しい対応と、生徒によりそってくれるところです

  • 中澤 悠介 さん 学部3 年

    中澤 悠介 さん 学部3 年

    1建物を作るまでの一連の流れを一から学べることができる研究室だと思ったから
    2就職活動を手助けしてくれるため心強いです

  • 平間 大智 さん 学部3 年

    平間 大智 さん 学部3 年

    2初対面の時から優しく接して頂き、人柄が好きになれたからです
    3木造建築の長寿命化

  • 増子 駿介 さん 学部3 年

    増子 駿介 さん 学部3 年

    1木材について興味があった
    2気さくで話しやすい人

  • 横川 結菜 さん 学部3 年

    横川 結菜 さん 学部3 年

    1木造建築について学べると思ったから
    2話しやすい人柄

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