研究室インタビュー
月面に居住空間を。未来の建築をつくるソガメ折り
東海大学
|宇宙建築 十亀昭人研究室
十亀昭人 教授
宇宙建築と聞いて何をイメージするだろう?漆黒の宇宙空間に浮かぶ人工衛星か、未知なる惑星で生命を守るシェルターか。SF映画に見るような宇宙建築の礎になるかもしれない技術。そんな研究を手がけているのが十亀昭人准教授だ。「いつか、月面に居住空間をつくることを夢見て、今はその基礎的な研究を行っています」
十亀昭人 教授
博士(工学)
(そがめ・あきと)
1970 年 愛媛県生まれ
1993 年 東海大学工学部建築学科卒業
1995 年 同大学院建築学専攻修士課程修了
1995 年-2002 年 西松建設建築設計部、技術研究所
2000 年 東京工業大学大学院総理工博士課程修了
2002 年 東海大学工学部建築学科専任講師
2005 年 同工学部建築学科准教授
2010 年 文部科学大臣表彰、宇宙開発担当大臣表彰
2012 年 松前重義賞(最優秀)
美しい星空から喚起された宇宙への思い
愛媛県で育った十亀准教授は満天の星空の 下、親族に見せてもらった天体望遠鏡の中の惑 星に魅了される少年時代を過ごした。高校1 年 生の頃、最接近したハレー彗星を撮影した写 真が地元紙を飾ったこともあり、宇宙への思い を募らせていく。一方ものづくりにも興味があ り、東海大学建築学科に進学した。 当初は建築家志望で、設計課題に意欲的に 取り組み、趣味のパラグライダーにもいそしむ 大学生活を送っていたが、本格的に宇宙建築 について考えるようになったのは4 年生の卒業 研究。「" 宇宙の建築家" とも呼ばれる三浦公 亮博士の考案したミウラ折りを見て衝撃を受 けました。自分が興味のある建築と宇宙をつな げることができるかもしれないと考えて、卒業 設計では月面にドーナツ状の居住空間" 重港 " を設計しました。月の重力は地球の1 / 6 で すが、重港は円周部分が回転することによって 遠心力がかかり、円の外側に行くほど地球の重 力に近くなる人工重力施設、というコンセプト です」。当時は宇宙建築という言葉自体が珍し く、建築学科教授陣から直接的には技術的な 指導を受けるのは難しかったが、幸い、十亀准 教授の師事した上松佑二教授(現名誉教授)は 自由を重んじる教育方針で、当時の十亀准教 授も自身の信念に率直に、のびのびと卒業設計 に専念することができた。
2次元的な“ミウラ折り”から3次元的な“ソガメ折り”へ
大学院修士課程修了後、十亀准教授は大手 ゼネコンに7年間勤務する。入社時は建築設計 部であったが、2 年目からは技術研究所で、宇 宙建築の研究にも携わることができた。「当時 の技研の栗原所長という方が理解のある方で、 JAXA(当時の航技研)や、京都大学の宇宙の 専門家を研究所に呼び、私と3名で宇宙開発の 研究を自由にさせてもらえました」。その後上司の勧めもあり、「ミウラ折りの考え方をもっと 探求してみたい」との思いが芽生え、既にご退 官されていた三浦公亮博士の一番弟子が教鞭 をとっていた東京工業大学博士課程に進んだ。 ミウラ折りは対角線部分を押し引きするだ けで簡単に展開・収納できる2 次元的な展開 パターンだ。山折りと谷折りが固定され、折り 目の頂点がズレることで破れにくいという特徴 もあり、ポケッタブル観光地図など各方面で活 用、実用化もされている。"『氷結』のパッケー ジ表面のダイヤカットもその仲間" と聞くとイ メージしやすいだろうか。その技術は実際に人 工衛星の太陽電池パネルなどにも応用されて いる。 東京工業大学で十亀准教授はこのミウラ折 りの形態を3次元に展開させる研究に取り組 み、"ソガメ折り"を考案した。「斜めに折る角 度を計算から導き出して調整することで、平面 状のものから、筒状や球状などの立体的な形を 瞬間的に立ち上げることができる折り方です。 ソガメ折りで金属版や新素材をコンパクトに畳 むことで、輸送にコストがかかる宇宙空間でも 効率的に3次元構造物をつくることができます」
研究室から生まれたベンチャー企業や地上へのスピンオフ
現在研究室では、学部生は主にこれまで考えられてきたソガメ折りのいろいろなパターンについて、より効率の良い開き方やスムーズな収納の仕方などの、検証、実験を行っている。大学院生になると新しい形態パターンの発明、開発へと研究がグレードアップする。宇宙建築の今後の可能性は無限大だ。十亀研究室のOB には、いち早く宇宙で暮らすこと の需要に着目し、ベンチャー企業を立ち上げ たメンバーもいる。「"OUTSENSE" 立ち上げ メンバーの髙橋鷹山さんなど、何名かは研究室 OB です。髙橋さんは学部途中で宇宙建築に魅 力を感じ、中部地方の大学から編入してきまし た。宇宙建築を専門的に研究しているのは日本 ではここだけなので、このような学生が集まっ てくれます」。唯一無二な独自のテーマを掲げ ているからこそ、その分野に興味を持った優秀 な人材が集まり、それによって内部の学生も良 い刺激を受けることができる。 世界ではイーロン・マスクやジェフ・ベゾスな ど、宇宙開発に莫大な予算をつぎ込む資産家も 多く、民間人の宇宙旅行も始まってきている。 月面にソガメ折りの居住施設が見られる日も そう遠い未来ではないかもしれない。 「OUTSENSEもそうですが、宇宙建築を目指 しながらも、地球上の極限環境下や災害時の仮 設建築などに、開発した技術やシステムをスピ ンオフという形で還元し、事業として成立させ ることが考えられています。基礎研究は実際に 形として世の中に出てくるまで長い時間がかか るので途中で離れがちですが、" 自分はこれが好 きだ" と思えるものが一本あるならば、あきら めずにいろいろな観点からトライし続けて欲し い。その努力が未来の社会をつくる一つの礎に なるかもしれないと思っています」。
研究室メンバーに聞きました
[ 質問項目 ]
①十亀研究室を選んだきっかけ
②十亀先生の魅力
③自身の研究テーマ
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金佳琪さん キン・カキ 修士2 年
①無限な可能性のある宇宙建築に興味があった。
②実現するまでサポートしてくれ、留学生でも楽しく研究できる。
③ 3 次元筒状展開構造物についての幾何特性 -
足立はなさん あだち・はな 学部4 年
①他の大学にはない特殊な研究内容に興味を持った。
②物腰が柔らかく面倒見が良い。
③ 3 次元筒状剛体展開構造物の収納挙動 -
小倉零韻さん おぐら・れうん 学部4 年
①無重力、真空中でどのように建築を建てるか研究してみたかった。
②建築を宇宙で捉える視野の広さ。
③ 3 次元筒状剛体展開構造物の作用点集約時の高さを変えた展開挙動 -
川村遼さん かわむら・りょう 学部4 年
①他の研究室ではできない宇宙に関する研究に惹かれた。
②学生のことをよく考えてくれる。
③ 3 次元筒状剛体展開構造物の頂点数の違いによる方向収納挙動 -
古積廉人さん こづみ・れんと 学部4 年
①宇宙にも建築にも興味があった。
②優しく時には厳しい。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の複層展開挙動 -
白崎大志さん しらさき・たいし 学部4 年
①宇宙建築という発展途上のジャンルに興味があった。
②他の人が挑戦しないような可能性を信じ無限大なことに挑戦している。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の作用点集約時の高さを変えた展開挙動 -
末次翔吾郎さん すえつぐ・しょうごろう 学部4 年
① 1 年次に十亀先生が担当してくれ、優しい人だと思った。
②宇宙という未知の世界にチャレンジしている。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の作用点集約時の高さを変えた展開挙動 -
菅崎康太さん すがさき・こうた 学部4 年
① 宇宙と建築に興味があった。
②明るく楽しく、優しい。説明が分かりやすい。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の頂点数の違いによる周方向収納挙動 -
田島佑基さん たじま・ゆうき 学部4 年
①宇宙に興味があった。
②困っている時、すぐにサポートしてくれる。知識が豊富。優しい。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の複層展開挙動 -
田中嶺次さん たなか・れいじ 学部4 年
①宇宙建築という珍しさに魅力を感じた。
②優しく、サポートもしっかりしていて安心して研究に取り組める。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の外周連結型による収納挙動 -
原澤大樹さん はらさわ・ひろき 学部4 年
①宇宙と建築の関わりに興味を持った。
② 楽しさや優しさが伝わってくる。説明が分かりやすくしっかり指摘してくれる。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の頂点数の違いによる風方向収納挙動 -
渡辺渚月さん わたなべ・なつき 学部4 年
①入門ゼミでお世話になり宇宙建築に興味を持った。
②優しい。困ったときにアドバイスをしてくれ、分かりやすく教えてくれる。
③ 3次元筒状剛体展開構造物の複層展開挙動
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